映画和日乗

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「帰れない二人」監督ジャ・ジャンクー at 新宿武蔵野館

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 中国語原題は「江湖兒女」英語タイトルが"Ash Is Purest White"(灰は純白)そして邦題が「帰れない二人」。中国語原題は江湖(生まれ)の少女、という直訳ではなく転じた意味があるようでジャ・ジャンクー監督の言葉によると江湖というのは大衆というか、現代中国社会全体のことであり、兒女は男女の情念のような意味とのこと。江湖はWikiによると官に対する民間、世間一般という意味らしい。

 2001年から2018年までの一人の山西省出身の女の行き方を描く。例によって女はチャオ・タオ。役名まで同じだ。民間の人だが市井の人、ではない。字幕では渡世、渡世人となっているがヤクザの女だ。ビン(リャオ・ファン)が仕切る麻雀荘がアジト。賭博よりは闇金融シノギのようだ。チャオに拳銃の撃ち方を教えるビン。時代は好景気らしく、ディスコのダンスは見事なキャメラワーク。「ロケットマン」より断然こっちの方がカッコいい。そのディスコの床に落ちる拳銃。この拳銃が二人の運命を分かつ。対立組織に襲われるビン。その直前にチャオの絶頂の地位を暗示させるわがままぶりが良い。ドアガラスを突き破るビンの拳。ビンの格闘は北野武を想起させる。そういえばこれまでジャ・ジャンクー作品の冒頭にはオフィス北野のロゴがあったのに今回は無い。北野武へのオマージュが感じられるのはある種必然かもしれない。チャオの発砲、嗚呼「緋牡丹博徒」だ、もうスタイリッシュ過ぎて恍惚としてしまう。日本のヤクザ映画へのオマージュはここまでで、この事件で逮捕されて服役した二人は5年後再開、ビンの居場所を探してやっとこ辿り着いたチャオはビンの今の女と対面する。なんと成瀬の「浮雲」('55)じゃないかこれ。小さな携帯電話、巨大な火力発電所。2006年の中国社会が二人の背景に流れる。

 「浮雲」の流れは続き、「浮雲」とは逆に男の方が患う。脳出血で半身麻痺となるビンは捨てたはずのチャオを頼る。2018年携帯電話はスマートフォンになり、ナビで道案内。歩けないビンは時代に苛立つのか若衆の作った食事を蹴散らし、礼儀知らずと罵る。時代に完全に取り残されてしまった男。叱りつけるチャオ、かつてのアジトには監視カメラ。如何しようもない男と女を監視カメラは見詰める。現代中国版「浮雲」の顛末はほろ苦い。帰れない二人、はまた、戻れない二人である。

 ジャ・ジャンクーの映画が大好きで、今回も愛おしい。UFOの件はこの人らしさが横溢、リアリズムがシュールに跳ぶ瞬間を見る事が出来て嬉しい。チャオ・タオの格好良さには惚れ惚れする。佳作、お勧め。

 

浮雲

浮雲

 

 

 

 

「ロケットマン」監督デクスター・フレッチャー at TOHOシネマズ新宿

www.paramount.co.uk  デクスター・フレッチャー監督は「ボヘミアン・ラプソティー」で途中から監督になった人。いろんな事情があったことは察するに余りある。で、続いて間隔を置かず実在の、しかも現存のアーチスト、エルトン・ジョンの半生を描くと。製作事情としては「ボヘミアン‥」と地続きであることは想像がつく。

 ロックスター、いやロックに限らない音楽スターの人生を描く映画というのはパターンが決まっていて、下積み→成功→酒色に溺れ→ほどなくクスリに手を出しどん底へ→やっと見つけた真実の愛→復活、という方程式が大体当て嵌まる。この流れのどこかに昔からのバンドメンバーと仲違い、というのが入る。本作もその域を出ない。裏切らない。

 冒頭断酒なのかクスリ断ちなのか、そういうセミナーに現れるエルトン・ジョン(タロン・エガートン)の生い立ちの回顧から物語は始まる。音感に優れ、ピアノは天才的だった。しかし彼を押さえつけ続けたのは軍人出身の父親。息子に無関心、私物のレコードに触ると叱りつける。エルトンにとってこの人物が何故にそこまで深くネガティヴな影響を与えたのかは他人には窺い知れない。ともあれゲイであることを自覚、音楽制作のパートナーであるバーニー(ジェイミー"リトル・ダンサー"ベル)に片思い。面白いのはエルトンはあっという間に売れっ子になるのだが、自分が手に入れたい愛に対して、とても臆病であること。父親から否定され続けた存在であったことが影響して、音楽の才能以外の自己評価は低いのだ。このか弱き自己を守るための偽りの自分からの解放がこの後彼自身の生きるテーマであるように描かれる。が、お決まりの酒とクスリ、生きているのが不思議なくらいの猛烈な量だ。そして見る幻影は自分の子供時代。本当にそうならそうなのだろうが、映画的には凡庸。ま、それで色々あったが偽りの自分からの解放を果たしました、というラスト。ところどころ挟まれるミュージカルの群舞は撮り方のせいなのかダンスの質なのか平凡で既視感に溢れ躍動感に欠ける。同じく自己の人生を省みるボブ・フォッシー監督「オール・ザット・ジャズ」('79)は偉大だったとあらためて。

エルトン・ジョン、素晴らしい才能であることは間違いない。長生きして下さい、ってとこか。

 

 

他人会新社第9回公演「リハーサルのあとで」on 新国立劇場小劇場

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村上穂乃佳嬢と席に着いたら後ろの座席から田中美里嬢に突かれて、あら奇遇。

終演後、主演の榎木孝明さんにご挨拶。田中美里は榎木さんと「二宮金次郎」で共演。

 

 

港区南青山6「CUT」

bar-cut.amebaownd.comラジオ出演後、メインパーソナリティの谷健二氏のお店で打ち上げ。

 

仁科貴氏とコッポラ・ディレクターズカット・ジンファンデル生年不詳。