映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「大阪物語」監督・吉村公三郎 at 京都府京都文化博物館フィルムシアター

www.bunpaku.or.jp1957年大映作品。

原作が溝口健二となっていて、溝口が撮るつもりだったのにクランクイン寸前に急逝した為、追悼作品として吉村公三郎が監督を引き継いだ。脚本は溝口の座付、依田義賢。抜群のストーリーテリング、近州の極貧の一家が大阪に出て米拾いから始めた両替屋の盛衰記。

 凄まじいドケチぶりの鴈治郎の、時に挟まれるどアップが可笑しい。本当にこんなコメディを溝口が撮ろうとしていたのか、それとも吉村監督が改変して行ったのか不明だが笑いが絶えない。長谷川一夫の息子、林成年と色ごと大好きな勝新の二代目っぷりが楽しいし、雷蔵は初々しく香川京子は色っぽい。三益愛子が演じた強欲婆さん(息子勝新を溺愛する母)、溝口の構想では鴈治郎の妻役の浪花千栄子がやるはずだったとか。

セットデザインの豪華さ、見事さはドケチ物語に相反して溜め息の出るほどゴージャス。往時の大映京都の栄華かな。

 

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「ル・アーブルの靴みがき」監督アキ・カウリスマキ at 元町映画館

www.janusfilms.com

2011年の作品、元町映画館で35㎜フィルム上映。

しばらくカウリスマキの映画はサボって見ていなかった。フィンランドの小津は相変わらずであった。ちょっと北野武をも彷彿とさせるタッチ。

ル・アーブルは検索するとフランスの港町。不法移民を囲う靴磨きのおっさんマルセル(アンドレ・ウィルム)。仕事のパートナーも中国人の出生証明書を持つベトナム人。弱きを助け、妻を大切にする善人。警察権力は難民狩りに余念がない。マルセルはなんとかしてアフリカ難民の少年を、母が住むというロンドンに逃がしてやろうと奮闘する。

意表を突く劇伴音楽が新鮮。みんな根は良い人、の人情喜劇であると同時に「そうあって欲しい」というヒューマンファンタジー。

 

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「キングスマン:ゴールデンサークル」監督マシュー・ヴォーン at 109シネマズHAT神戸

www.facebook.com007シリーズの亜流と見なされていた0011ナポレオン・ソロシリーズの主演を務めたロバート・ヴォーンの妻の連れ子マシュー・ヴォーン監督。忸怩たる思いがあったのかそれとも環境がそうさせたのか、キングスマンなるウラ007を創造する。映画的センスの良さと英国流の言語センスで魅せ切った前作に続く第2弾。007なら「ロシアより愛をこめて」に相当する位置付け、かと思いきやコメディに重心を置いている。

 「キック・アス」('10)以来ヴォーン監督の専売特許のような早送り調CGアクションは流石にこちらも目が慣れて食傷気味。それよりも今作で魅せたのは彼のアメリカ映画愛。麻薬王ポピー(ジュリアン・ムーア)のアジトはカンボジアの奥地、そのセットデザインは「地獄の黙示録」('79)愛に満ちている。その中にダイナーとボウリング場を設営ってこれはムーア姐さん出演の「ビッグ・リボウスキ」('98)、人間ミンチは同じくコーエン兄弟監督の「ファーゴ」('96)を彷彿とさせ、「リボウスキ」主演のジェフ・ブリッジスがステーツマンなるウラCIAみたいな組織のボス。その手下のウィスキー(ペドロ・パスカル)の出で立ちは往年のバート・レイノルズそっくり。というかステーツマンのイメージがレイノルズ主演の「トランザム7000」('77)に描かれる典型的ヤンキーに由来しているように見える。

山スキーゴンドラアクションと無駄に豪華なキャスティングのハル・ベリーは007への目配せか。いつの日かマシュー・ヴォーン監督の007が実現することを願って止まない。


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「台湾萬歳」監督・酒井充子 at 元町映画館

「台湾萬歳」公式サイト

台湾三部作、三部作ということはこれが最終章なのか。
今回は台東縣の成功鎮という漁村の、原台湾民族に焦点を当てる。

一様に日本語を話す老年層と、カタコトのその子の世代。しかし、若い層になるとそれはない。

漁も狩りも土地の神に祈る儀式が興味深い。我々が今住む世界の、ほとんどがどうでもよかったり、下品で醜い憎悪や暴力だったりする情報の渦から一切遮断されたような澄んだ時間の流れに作者酒井監督がどっぷりとつかっている。日暮れ、犬の鳴き声、子供の笑顔、正月、歌。観ている我々もその時の移ろいにうっとりしてしまう。特に何かが起こるわけではない。しかし映画の中に人が生きていて、笑顔で、幸せそうなのだ。そこが良い。

 

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「永遠のジャンゴ」監督エチエンヌ・コマール at シネリーブル神戸

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その名を知っていても全くの不見識であったジャンゴ・ラインハルトの戦時中のエピソード。

朗々と流れるロマの歌を遮断し、抹殺するモーゼルの銃声。このショットの連なりだけで時代とこれから始まる民族迫害の予感を感じさせる映画的なオープニングにまず居住まいを正す。
そして1943年をリアリズムで見せるルックに感心。あの時代、ランプと月明かりしかないロマ族達の夜を臆することなく暗いまま見せる。

ロマ族として迫害されているにも拘らず、その天才的なギターさばきでナチスのお眼鏡にかなったジャンゴは彼らのパーティで強制的に演奏させられる。スイス国境に近いレマン湖湖畔の屋敷でのそのパーティに乗じて反ナチ活動を実行しようとするレジスタンス。演奏内容を厳重に制限されたジャンゴが、どのようにしてレジスタンスに協力するかが最大の見せ場。

エンディングのレクイエム、ジャンゴのそれまでの演奏曲と資質と異なるその旋律に深く感動。

今年、アウシュビッツで見た、殺された夥しい数のロマ族のポートレイトとの符合、リトアニアのヴィリニュスで耳にした曲との符合に得心が行く。

佳作、お勧め。