映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」監督ショーン・ベイカー at シネリーブル神戸

https://floridaproject.movie/

 フロリダ、ディズニーランドの街にあるモーテル「マジック・キャッスル」は実在するらしい。検索すると確認出来た。実際、この映画で描かれているような貧困層の巣窟になっているかどうかは定かではないが、悪趣味とも言えるパープルのペイントがシニカルだ。

 キャメラは常に子供達の視線か、鳥瞰的なアングルでモーテルの周りの世界を捉える。教養も品格もあったものではないヘイリー(ブリア・ヴィネイト)とその娘ムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)を中心にした日々の生活をドキュメンタリータッチで追う。取り立てて起伏のあるストーリーは無い。無邪気に遊び回る子供達、可愛い悪戯から逸脱した危なっかしさと貧しい食生活が延々と描かれる。負のスパイラルから抜け出しようもなく、ヘイリーは偽ブランド香水の押し売りと売春に走り、やがて当局の知るところとなる。この親子だけに限らず、モーテルの住人達に諦観に満ちた優しさで接するのが管理人(ウィリアム・デフォー)。ウィリアム・デフォー、彼以外は殆ど俳優では無い素人である中、世界に溶け込んでいるのは見事。

 中盤、広大な空き家群に侵入し放火する子供達のシーンがあり、これがサブプライムローンの残骸であることはすぐに想起できる。リーマンショックによる金融恐慌とここに描かれている貧困層は無縁ではない。家が持てない人にも家を、がサブプライムローンの描いた理想郷で、実際にはそれが破綻し、彼らの今日があるのだ。しかしそんなことを批判するでもなく火事見物する人々の無邪気さに暗澹とする。

 是枝裕和監督「誰も知らない」('04)の影響がそこここに見受けられるが、このエンディングは意見の分かれるところだろう。リアリズムからシュールに飛ぶ一瞬には心動いたが。

「52Hzのラヴソング」監督・魏徳聖 at 元町映画館

 

 

 珍しい、初めて観る台湾映画のミュージカル。「ラ・ラ・ランド」('16)の影響だろうか。ただ、中国語のポップスでミュージカルというのを見慣れていないせいか映像の流れにノリ切れない。

 台湾のバレンタインデー情人節は日本からの輸入なのに現在の日本よりよっぽどの盛り上がりぶりだ。そのバレンタインデーに花やらチョコやらイベントやらと愛をデリバリーする人々の他愛ないお話。中盤、現役台北市長が登場して堂々の演技を披露するまでのテンポが悪い。

 後半、Lawry's 台北 が舞台になってびっくり。台湾有名芸能人のゲスト出演は楽しく、セットとロケの繋ぎ方も巧いだけに、惜しい。

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映画「孤狼の血」監督・白石和彌 at 渋谷TOEI

www.korou.jp   やや雨降り模様の白波ザブーン旧東映のカンパニークレジット。硬い朗読調のナレーション。観る者を一気に'70年代東映実録ヤクザ路線、とりわけ深作欣二&笠原和夫コンビ作品のそれを想起させる仕掛けに乗れたら後はフルスロットルで駆け抜けられる。 

 ベースは「県警対組織暴力」('75)に間違いないだろう。それにフリードキンの「L.A.大捜査線/狼たちの街」('85)が加味されているように見える。

 灰原隆裕撮影+川井稔照明の仕事が素晴らしい。日本映画で本当に久しぶりにちゃんとお金をかけて作り込まれたルックに心の底から感動した。松坂桃李に近づく女(阿部純子)の部屋のセット(美術:今村力)に往年の東映セントラル作品の匂いを嗅ぐ。あの透明の冷蔵庫の中のスイカとプリンはウォン・カーウェイ調だ。音も素晴らしい(録音:浦田和治)、とってつけたような銃声じゃない。人間の肉をえぐる音も。監督以下スタッフ全員の気合いの入った仕事に応える俳優陣、二言目には「モリタカ!」と呼ばれる遊びゴコロに殺気で切り返す江口洋介は演技賞もの。

 韓国映画犯罪都市」に対バン張れる初めての邦画、やれば出来る!と言うと「上から」との誹りを受けるかも知れないが、天晴!佳作、お勧め。

 

 

 

「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」監督クレイグ・ギレスビー at TOHOシネマズ新宿

www.instagram.com  トーニャ・ハーディング(マーゴット・ロビー)の母親ラヴォナを演じたアリソン・ジャネイは本作でオスカー助演賞を獲得。いや見事なゲスっぷり、神経に障る性格のねじれまくりぶりはその賞に充分に値することに異論はない。アリソン・ジャーニーに限らず、登場人物の憑依したかのようななりきりっぷりがこの映画の最大の見所。そして全員見事なまでに頭が悪い。被害者のナンシー・ケリガン以外に同情すべき人物がいない。品性下劣、品格の欠如。ここに描かれる実際にあった事件を通して、米国の貧困層の市民がこの時代はもとより今日のトランプ政権の時代に至るまで脈々と、あるいは増幅しながら生き続けているように見えてならない。二度、強調するかのように当時のレーガン大統領のポスターがアップで映るのはその暗喩か。

「ロープ 戦場の生命線」監督フェルナンド・レオン・デ・アラノア at CINEMA KOBE

www.facebook.com  1995年、バルカン半島のどこか、というクレジットから始まる。国境なき水と衛生管理団なる国際支援NGOは、ある井戸に投げ込まれた人の死体を縄で引き揚げようとするが重さで切れてしまう。死体を引き上げなければ井戸の衛生は保たれない。これは水を売ろうとする一団の仕業なのだ。衛生管理団のマンブルゥ(ベニシオ・デル・トロ)とB(ティム・ロビンス)はスタッフと共にロープを探す旅に出る。

 エミール・クストリッツア監督がけたたましく描くユーゴスラビア内戦と正反対の、停戦後の静かなる、しかし荒涼たる彼の地。牛の死骸が道路に横たわっている場合は必ずや地雷が仕掛けられているというエピソード。基本的に淡々と、爆発音も銃声もしない世界だが、そこで起きた悲劇は充分想像できる演出は秀逸だ。

 後半、悲しい事情でようやくロープが手に入るものの、実に皮肉な、苦々しい展開になる。マンブルゥの諦観に満ちた表情、常にアメリカンジョークで苛立ちを反転させるB。ボスニア情勢の一筋縄では行かない、まさしく現場で起きていることと、国連のようなロビーで判断されていることの乖離が顕在化する。

 原題はA Perfect Day、ラストでこの意味が分かる。エンディングに流れる"Where Have All The Flowers Gone"はPPMの歌として認識していたが、ここではマレーネ・ディートリッヒの歌声。沁みる。

 佳作、お勧め。

ロープ 戦場の生命線 [DVD]

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「犯罪都市」監督カン・ユンソン at シネマート心斎橋

twitter.com   2004年、ソウルで実際にあった事件をもとにしたクライムアクション。

 中国の朝鮮族、というと北朝鮮国境から中国に逃げる人々が潜伏する町としてよく聞く延吉という町、そこからソウルに入り込んだヤクザどもが地元の組を飲み込んでいく。「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」('85)を想起させるが、あの時のミッキー・ロークが裸足で逃げ出すようなど迫力腕力刑事がマ・ドンソク。相撲の張り手のような技で相手を一発でノシてしまう。対する朝鮮族ヤクザの凶暴ぶりが容赦ない。映画史的にも最凶じゃないか。東映実録ヤクザ映画を100本ぐらいシャッフルしたような展開だが、ドンソク刑事の肉体が何者にも優る。にも拘らず軽妙なダイアログが笑わせるし、気は優しくて力持ち、な彼に観る者は全て魅了されてしまう。

 刑事もヤクザもみんな面構えが良い。特にキャラクターとして強調される部分はなくともあの顔、顔、顔が彼らの人生全てを物語っているようにさえ見えてしまう。

 後半、組織諸共一網打尽を狙う警察側の大芝居、惜しむらくはアンダーカバー側の中国語。あれじゃネイティブにバレるよ。

 とまれ、そこさえ目を瞑ればスカッとする痛快アクション。ドンソク刑事シリーズ、出来るのでは?佳作、お勧め。


『犯罪都市』人間戦車、ドンソクの全力ダッシュ!撮影メイキング映像解禁!