映画和日乗

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「ライフ・イズ・コメディ!ピーター・セラーズの愛し方」監督スティーブン・ホプキンス at シネカノン神戸

 冒頭、クルーゾー警部に扮していると思しきココリコ田中主演の凡庸極まりない
短編がついている。つまり、こうまでしないと日本のレベルの低い観客はピーター・セラーズ
=クルーゾー警部という認識を喚起できまい、という配給会社の「温かい配慮」という訳か。
ともあれ、英国の名優ピーター・セラーズの一代記。
アバン・タイトルのアニメからして1960年代英国モノムードパロディで始まり、
セラーズが憑依したかのようなジェフリー・ラッシュは、
時に更に別の人物に扮してセラーズの人となりを客観的に語ろうとする。そのめまぐるしい
変身ぶりには感嘆を禁じ得ない。これはレイ・チャールズひとりを演じ切るのとはまた別の才能だ。
そしてやはり、彼の映画の代表作「ピンクパンサー」シリーズと
博士の異常な愛情」('64)を巡るエピソードが興味深い。いずれも監督との愛憎をまみえた
関係が克明に描かれている。やっぱりキューブリックって一流だったんですね。
その一方で彼自らが映画化を熱望した「チャンス」('79)の製作エピソードについては
心臓発作で生死を彷徨った後とあって極めて誠実だったようだ。全体に映画好きには
堪らないエピソード満載、キューブリックの登場シーンは「シャイニング」('80)
のパロディ、ボンド・ガールだったブリット・エクランドをシャーリーズ・セロン
演じているのもゼータクでゴージャス!
どんなに落ち込んでいても「ええねーちゃん」を見つけたらハイテンションになり、
極端なまでのマザコンだったが、こと演技に関しては千手観音的に天才だった男。
何故か僕は田中康夫さんを重ねて観てしまいました。