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「ナイロビの蜂」監督フェルナンド・メイレレス at 国際松竹

「シティ・オブ・ゴッド」('02)が素晴らしかったメイレレス監督のメジャー進出第一作、映画の国籍は英国となっている。原作はたくさん映画化されているジョン・ル・カレのミステリー・サスペンス(未読)。ロンドンで講演する英国外務省の官僚、ジャスティン(レイフ・ファインズ)は、ジャーナリストのテッサ(レイチェル・ワイズ)にイラク戦争の英国参戦を糾す質問をぶつけられる。官僚らしく逃げの答弁をするジャスティンにいきり立つテッサだが、この二人、映画が始まって5分ほどで恋に落ちる。ジャスティンはケニアに派遣され、テッサは彼と結婚して同行、妊娠するが、ケニアの疫病(HIV結核)蔓延の現状に立ち向かうことになる。直情径行、信念に従って猪突猛進に突き進むテッサにしばしばついていけなくなる小心官僚のジャスティン。やがてテッサは欧州の製薬会社が副作用を承知でアフリカの子供達に結核予防の特効薬を治験投与している疑惑を抱く。これには巨大な利権が絡んでおり、英国外務省も一枚噛んでいた。そしてテッサは謎の死を遂げてしまう…というお話。官僚らしく長いものに巻かれようとするジャスティンが、疑惑に気づき、妻の謎の死の真相を探ろうとする後半にややご都合が見受けられる(従兄弟から簡単に偽造パスポートを手に入れるくだり)ものの、「シティ・オブ・ゴッド」で劣悪な環境で凶悪な殺し合いを描ききった、ブラジル人監督の眼目は、ル・カレ的サスペンスよりもアフリカの悲惨な現状を描くことに重点が置かれている。スーダンの残忍凶暴な部族間闘争から命からがら逃げたジャスティンが、助けた少女を救援機に乗せられないと聞いて憤激するが、少女は自ら救援機を降りる。パイロットが言う。「これがアフリカの現状だ」。善意の医師(ピート・ポルスウェイト、名演)も「運が良ければ難民キャンプにたどり着くだろう」としか言えない。この、巨大な悲劇と混沌と陰謀の前に、ジャスティンは為す術もない、死んだ妻テッサの方が力強い理想主義者であったことを悟るラストに、やり切れない虚しさを背負って映画を見終わることになる。しかし、欧米(そして我が国も)はそのことから逃げてはならないという監督のメッセージを強く印象づけている。佳作、お勧め。

ナイロビの蜂 [Blu-ray]

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