映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「かぞくのひけつ」 at 十三第七藝術劇場

大阪、十三が舞台。
不動産屋を営む島村(桂雀々)は生来の女好き、というより世話焼きが高じてつい女の子と仲良くなってしまうタチ。その妻(秋野暢子)は夫の浮気が発覚する度に激怒するが、何故か元の鞘に戻ってしまう。高校生のひとり息子(久野雅弘)は自分を性病と思い込んでおり、彼女(谷村美月)の積極的な態度に物怖じしている。そんな島村家に嵐の予感。島村の愛人(ちすん)がアルバイトと称して不動産屋に勤め始めたのだ。事情を知らないのは妻だけ…というお話し。
これがデビュー作の小林聖太郎監督は彼が助監督時代の知り合い。以前、「疑似家族としての共同体に興味がある」と語っていたのを思い出す。が、ここでは疑似、ではなく大阪の普通の庶民の家庭を取り上げた。「浮気」「愛人が乗り込む」「性に悩む高校生」など、テレビの再現ドラマでほぼ毎日放送されているであろう題材を、間合い抜群の笑えるやりとりとエピソードで繋ぐ。いわゆるコテコテと称される大阪的人情喜劇、という匂いは不思議にしないのが特徴。と同時に映画後半、夫の浮気に耐え切れず離婚届を手に家出する妻を、息子と愛人が十三の街中を探すくだりで、そんな修羅場で夫がぼんやりしている描写は、非・人情を越えて「演出がお留守」な印象。愛人がそんな男に見切りをつけて「旅立つ」あたりも、ドロドロした愛憎劇を避けたかったのかも知れないが、男と女の「どうしようもなく繋がってしまう(しまっていた)」という情感がすっぽり抜けて物足りない。
しかし、一方で各々のキャラクターの「可笑しさ」は出色だ。大入りの劇場は笑いに包まれ、幸福感に溢れていた。この映画、ほかの劇場で観るより、ここ十三のナナゲイで観るのが一番楽しめるだろう。