映画的日乗

映画、食、人。西に東に。

「魂萌え!」監督・阪本順治 at パルシネマしんこうえん。

桐野夏生の同名小説の映画化。
東京郊外、60歳を目前にした主婦敏子(風吹ジュン)。夫(寺尾聰)は定年退職した翌日に急死する。米国から戻った長男は家族を伴って実家に戻りたいと言い出し、長女はボーイフレンドと同棲するという。葬儀の日、亡くなった夫のスーツの内ポケットの携帯電話が鳴る。敏子が出ると、伊藤と名乗る女だった。やがてそれは10年の付き合いになる夫の愛人(三田佳子)と判り、敏子は自分の知らなかった夫の世界、更には自分の知らないこの世間そのものに気づかされる…というお話し。
どんなに大声で怒鳴っても真剣に怒っているように見えない風吹ジュンのおっとりさが生かされおり、彼女がカプセルホテルにプチ家出をしてからが俄然面白い。
この実に些細な「冒険旅行」において、彼女のお人好しぶりが徐々に変化して行く。酔ったあげくピンク映画館で映写技師に入門し、帰路の電車の車内で自らのバッグの中に嘔吐しつつ自嘲気味に「世の中…」と呟く。しかしそれでも「魂」が「萌え」た、その瞬間の横顔を捉えた長いショットの美しさに感動した。
後半、亡夫の出資で出来た蕎麦屋で資産を巡って対決する敏子と愛人、この三田佳子の正面から捉えた顔のねめつけるような目線と、まとわりつくような声の不気味さが凄まじく、気圧されそうになる敏子の反撃、しかしそれでも捨て台詞を叩き付ける愛人、この単純な切り返しの連続の迫力は圧倒的。蛇足ですが…今陽子由紀さおりがハモって歌うと流石なんだけど上手過ぎ。
編集(深野敏英)小気味良く、撮影・照明(大塚亮・舘野秀樹)、音楽(coba)もオーソドックスと冒険を織り交ぜて見事。傑作、お勧め。