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「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」監督デイヴィッド・フィンチャー at MOVIX六甲

フランシス・スコット・フィッツジェラルドの原作を基に、才人デイヴィッド・フィンチャーが映画化。
1918年、第一次世界大戦が終わった日にボタン(button=バトン)屋を営む男の家に奇妙な子供が誕生する。難産で母親は死亡、自暴自棄になった男は、その赤ん坊を養老院の玄関の前に捨て置く。気の良い黒人の介護士に拾われ、ベンジャミンと名付けられる。たまたま院にいた医師は「まるで80歳の老人のような子」と言うが、なかなか子供が出来なかった彼女は彼を養子にする。ベンジャミン(ブラッド・ピット)はやがて自分が人とは逆の人生、つまり歳をとるごとに若返って行くことを悟る。17歳になって、養老院を出た彼は、船乗りとして冒険の旅に発つ。戦争、恋、失恋、そして幼い頃に出会った少女デイジー(ケイト・ブランシェット)との再会。やがてデイジーと結ばれ、一児をもうけるベンジャミンだが…というお話し。
開巻、配給会社のタイム・ワーナーパラマウントのロゴデザインがボタンの群れによってかたちづくられている。ここからしてただごとではないフィンチャー監督の凝りっぷりが示され、フィンチャーとコンビを組み続けるクラウディオ・ミランダ撮影監督の美しいルックが冴え渡る。若返って行くブラッド・ピット、十代の少女期なのに「そうみえてしまう」ケイト・ブランシェット(実年齢39歳)。これは時に映画から観客を遠ざけている一因にすら挙げられるコンピューター・グラフィック技術の、ひとつの完成された最高傑作と言えるだろう。一体どうやって撮ったのか…。
死の床にある老年期のデイジーの傍らで娘が日記を読む回想形式は「ビッグ・フィッシュ」('03)に類似するし、船乗りになってからのベンジャミンの進み方は「フォレスト・ガンプ」('94)と重なる(脚本は本作と同じエリック・ロス)ようにも見えるが、そんなことはどうでも良いくらい完璧に凝ったルックで描かれる「人生」が示す「ひとは何故生きるのか。いつか必ず死ぬのに」という命題にしばし立ち止まらざるを得ない。40代から20代へ若返って行くあたりのブラッド・ピットにはどうしてもあのカッコ良さにナルシシズムが滲むが、どんな映画でも毎度毎度完璧に化けるブランシェットは今や世界最高レベル女優だろう。これでもしオスカー獲れなかったら陰謀じゃないかとさえ思う。
2時間47分時計を見ることはなかった、美し過ぎる夕暮れの桟橋に涙した、佳作、お勧め。