映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「沈まぬ太陽」試写会 監督・若松節朗 at TOHOシネマズ梅田アネックス

山崎豊子の同名ベストセラー小説の映画化。
単純な映画化という言葉ではくくれないのは日本航空という会社をモデルとして、会社機構の腐敗を描いているからであり、これだけの大作でありながら製作出資会社にテレビ局、広告代理店は参加していない。言わずもがなであるがJALからの広告出稿利益からするとそういうことになるのであろう。
冒頭、アフリカのサバンナでの象狩りから始まり、すぐにあの御巣鷹山墜落事故へ。羽田空港はセットでつくられ、墜落へと至る描写は実に生々しい。「クライマーズ・ハイ」('08)にも出て来たタイガースの帽子を被った少年の悼ましい最期には胸がつぶれる思いだ。そして時は1962年へと遡る。ここで気がつくのだが、「1962年」というクレジットは出るのだが、事故の起きた1985年という刻印はどこにも出てこない。国民航空、という架空の航空機会社名を使っていながら御巣鷹山はそのままの地名で出て来る。この辺は深謀遠慮か駆け引きか、神経を使っているようだ。'60年代のこの航空会社の労使闘争から始まり、労働組合側のリーダーだった恩地(渡辺謙)と行天(三浦友和)の、まるで線路が分岐するが如くの人生が描かれる。恩地は誠意溢れる理想主義者、行天は悪辣非道の欲得まみれとしてキャラクタライズされているが、この二分法は会社幹部側、政治家、官僚、マスコミは「悪で俗」、組合側、遺族は「聖で善」とほとんど全ての登場人物に当てはめられている。この辺りは山崎豊子の原作に依るところであろう、エンターティンメントの王道ではあるが時代を感じてしまう。取締役の西村雅彦など時代劇の悪代官風ですらある。
むしろ体が離れられなくて行天の言いなりになりながら恩地の正義にもシンパシーを感じている松雪泰子や、組合の闘士としての誇りがありながら生きるために行天の不正に手を貸す香川照之といった人間の弱さを象徴するキャラクターの方がリアルというものだ。瀬島龍三を思わせる政府メッセンジャーを演じた品川徹、被害者遺族のひとり宇津井健が印象的。
とにかく出来上がったことが奇跡、折しもJALの経営再建やJR西日本脱線事故調査での不正の露呈と、タイムリーな時期での公開となった。それは、ここで描かれている40余年前から現在に至るまで、この映画が現実と線で繋がっていることの証左でもある。
3時間22分、インターミッション10分。全く退屈する間はなく心地よい疲労感。10月24日公開。