吉田修一の同名小説の映画化。
資料によると原作にほぼ忠実な内容とのこと。
東京、世田谷区某所。古いマンションの一室をルームシェアしている男2人女2人。
一見友人関係のようだが、年齢はバラバラ、学生も無職も社会人もいる。メンバーの一人、未来(香里奈、頗る好演)は記憶をなくすほど泥酔するのが癖だが、ある日得体の知れない金髪の青年サトル(林遣都、これまた好演)を部屋に泊める。同居人の直輝(藤原竜也)は会社を休んでサトルを尾行する…というお話し。
古いマンションのロケーションが良い。行定監督の「ロックンロール・ミシン」('03)のツタの絡まるアパートもそうだったが、この方"古いマンションフェチ"なのかも知れない。フラットになりがちな室内のセットの照明設計も、深みがあって素晴らしい(撮影・福本淳/照明・市川徳充)。ヴィットリオ・ストラーロが撮影した「ラスト・タンゴ・イン・パリ」('72)のルックが意識下から蘇る。
劇中のダイアローグ、直輝「マルチバースって知ってる?」未来「知らない」直輝「じゃユニバースは?」未来「宇宙でしょ」直輝「そう。マルチバースはいくつもの宇宙」…このやりとりがこの映画のテーゼであり、性的関係もなく暮らす四人の、相手に踏み込まない、争わない、そして気を遣う訳でもない無邪気な空間と、その「壁の外」にある「ほんとうの闇」が対比される。この皮膚感覚で伝わって来る現代性は、新しい衝撃だ。
やや演劇的空間造形に流れるいくつかのシークエンスは映画の温度を一瞬生温くしてしまうが、ノスタルジーに傾倒しない久しぶりにヴィヴィドな青春映画として見事。佳作、お勧め。
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