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映画、食、人。西に東に。

                         

「ウッドストックがやってくる!」監督アン・リー at ヒューマントラストシネマ渋谷

タイトル通り、NY州郊外の町でかの伝説のライヴ、ウッドストックが開催されるまでの顛末とその後を描く。
1969年、ホワイトレイクという町。のどかな田舎の風景とパレスチナ紛争、ベトナム戦争のテレビ映像から始まる。
ドケチで口うるさいソニア(イメルダ・スタウトン)と無口で無表情なジェイク(ヘンリー・グッドマン)の営む老朽化したモーテル。隣りのロフトにはヘンテコリンな劇団が合宿している。息子で画家志望のエリオット(ディミトリ・マーティン)は商工会の会長として町おこしの企画会議を開くがお寒い限り。しかし、クラシックのコンサートを開くための開催許可証を自分で申請して自分で許可したのが運のツキ。隣町で開催が予定されていたウッドストックが、ヒッピーを忌避する住民の反対で宙に浮いてしまったのだ。エリオットは自らウッドストックの運営事務局に電話し、誘致に成功する。この時から全米から大挙してヒッピー達が押し寄せ、熱気を孕んだ巨大なムーヴメントが始まった…というお話し。
アン・リー監督は歴史的な事実を俯瞰的に描くという視点もさることながら、主人公ジェイクの視点と彼の自我の確立への模索を重心に置く。あの時代のアメリカを描くのに何故台湾人監督が選ばれたのかと不思議だったが、「ウェディング・バンケット」('93)、「ブロークバック・マウンテン」('05)という過去の作品との関連性からすると納得がいく展開であった。そう、心優しきジェイクはある興奮状態の中で自分がゲイであることを受け入れ、悟るのである。この辺りの描写は流石に繊細で巧い。そして彼の自我に蓋をしている母親ソニアの極端な個性が凄まじく、演じたイメルダ・スタウトンは第一級の役者ぶり。
ウッドストックのステージ自体は全く出て来ない。記録映像を挟まなかったのは見識というもの。警官のヘルメットに一輪のマーガレット、ええな。佳作、お勧め。

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