映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「一枚のハガキ」監督・新藤兼人 at シネリーブル神戸

 拙作「能登の花ヨメ」の製作プロダクションは、新藤兼人氏が主宰する近代映画協会である。私は10年程前からここに出入りさせて頂いていたが、いつもひと際大きな声で話している新藤監督には何度もお目にかかっているし、前作「石内尋常高等小学校 花は散れども」('08)の撮影準備をされている光景も目撃している。その新藤監督が「最後」と宣言されてつくったのが本作。
 フルショットで捉える太平洋戦争末期の、本心を押し隠しひたすら死に向かう人々の、全てが儀式的な様子は、あの時代の国家体制の理不尽を嗤っているかのような達観ぶりだ。
 一方、広島の山村の一軒家で繰り広げられる友子(大竹しのぶ)の悲運と悲惨はきちっとした切り返しの連続で捉えられ、戦後に至って啓太(豊川悦司)が訪ねて来てからは、ワンシーンワンカットの長廻しで二人の会話を捉え続ける。しかしひとつのシーン、ひとつの言葉に裏に繋がるもうひとつの意味を含ませ、見ていて全く飽きない。「あなたがいらっしゃらないお祭りは、何の風情もありません」というハガキの文面が、後半の祝言の祭りに繋がった一瞬で涙が出かかる。資料によると100人の部隊で94人が戦死、生き残った6人の中の1人が新藤監督自身で、そのことをモチーフにつくられた映画とのことだが、何故98歳(現在99歳)に至るまでこのモチーフを温め続けて来たのかを考えると、劇中に出て来る友子の「死んだ94人が許しまへんで」という台詞の重さに行き着く。いまつくられる、つくられたことは新藤監督にとって必要な時間経過であり、あの頃の国家への不信と、広島の原爆にこだわって来た映画監督として、三度目の被爆をしてしまった今の国家への不信が重なる。
 強靭な構成力、ラストの「裸の島」('60)のセルフリメイクを思わせるワンシーンは、神々しくさえある。
劇場は満員、傑作、お勧め。

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