映画的日乗

映画、食、人。西に東に。

「かぞくのくに」監督ヤン・ヨンヒ at シネマート新宿

冒頭、1997年と字幕が出る。小泉訪朝が2002年、北朝鮮による拉致被害者の一部の方々の帰国よりも5年前の話しということになる。
東京・北千住の喫茶店を営む在日家族のもとに、病気治療を理由に北朝鮮から「非公式に」長男ソンホ(井浦新)が帰国する。ソンホには監視役としてヤン(ヤン・イクチュン)がついて来た。総連系の組織に属する父(津嘉山正種)は祖国の政治体制の矛盾については語らず、むしろ従属的。一方長女リエ(安藤サクラ)は率直に北朝鮮の理不尽な国家体制をなじる。3ヶ月の治療帰国が許されたソンホはかつての同級生らに会ったり、家族の団欒を楽しむが、無表情のまま多くを語らない。そして妹リエを工作員にリクルーティングするヤンからの命令を実行する…というお話し。
ドキュメンタリー出身のヤン・ソンヒ監督の初の劇映画。監督自身の境遇が色濃く反映された内容であることは想像に難くない。やや色を抜いたHDのルックが好もしい。フレーミングも秀逸で、ソンホが初めて母親(宮崎美子)の姿を見つける辺りは感動を禁じ得ない。また体験者でしか知り得ない描写は息を呑む。病気療養帰国が許されたもう1人の女性と共に家族が再会する空間、空気感がそれだ。またリエ=ヤン監督であることは自明で、彼女の感情の発露、会話の間合いがリアルに伝わって来る一方、どうしても芝居くさい演技をしてしまう俳優に対しては演出が抑えきれなかった印象。
無表情で本心を語らなかったソンホが、一度だけ父親に対して感情を爆発させる、明かりを消した真っ暗な部屋の応酬が胸に突き刺さる。終盤はやりきれない展開となる。劇場の観客からは複数の深い溜め息が漏れた。彼の国の非人道的理不尽への怒りを通り越した絶望感がそうさせる。ソンホは好物のハンバーグをいくつ食べる事ができたのだろうか。
今年観た映画の中で最も重要な一本。お勧め。


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