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「黄金を抱いて翔べ」監督・井筒和幸 at 神戸国際松竹

井筒和幸監督2年ぶりの新作、高村薫の原作は未読。
大阪の銀行本店(といえば旧財閥系のあそこしか想起し得ない)から金塊550キロを強奪するプロ集団。棟梁は北川(浅野忠信)、相棒は幸田(妻夫木聡)。借金に追われている訳でもない、とりわけ北川は妻子と共に小市民然と暮らしいてるのだがただ強奪したい、というシンプルな欲望に忠実というキャラクター。キネマ旬報10月下旬号で評論家上島春彦氏が「実は一度見たくらいでは物語を完全に把握することはできない」と書いているように、主人公二人以外にこの計画に絡んで来る人物達の関係性がよくわからない。借金に追われている会社員(桐谷健太)のみそのバックボーンがはっきりしていて行動の動機が読み易いのだが。旧い左翼過激派の描写と台詞は我々世代より下の世代の人には伝わらないだろう。北朝鮮の政府組織から狙われるモモ(チャンミン)、その銃撃戦とアパート爆破の描写は実に生き生きと迫力がある一方、クライマックスの金塊強奪計画実行の描写は急速にスケールが縮小して行く。神戸旧居留地の神港ビルをかの巨大銀行に見立てて撮っているのだが、どうにも。
アメリカンニューシネマへの忠誠をしばしば語る井筒監督、本来はピーター・フォンダドン・シーゲルが数多く撮った軽やかなB級犯罪映画を毎年1本くらいのペースでつくれる御方。本作もシーゲルの「突破口!」('73)を想起した。全世界的に志ある映画製作を巡る状況が悪化する中、どうしても何年分ものやりたかったことをぎゅうぎゅう詰めにしてしまった感がある。


「突破口!」オープニング


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