映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「プロミスト・ランド」監督ガス・ヴァン・サント at 109シネマズHAT神戸

2012年の映画だが、何故か今頃公開。
米国のある田舎町に、シェールガス掘削で莫大な利益を得ている企業が調査員スティーヴ(マット・デイモン)とスー(フランシス・マクドーマンド)二人を送り込む。天然ガスの利権を得る為に町ごと金で買い取ってしまう算段だ。最早田舎町の懐柔策はマニュアル化しているようで、地元でわざとダサい服を買い、子供達に近寄り、町民には出来るだけ親しげに話しかける。まず蜜に群がって来るのは我が国同様市議会議員だ。勿論そんな下衆への心付けも忘れない。ゴネれば脅しに転じるのも手慣れた手法のようだ。さて、住民説明会を開くまでにこぎつけたが、そこで「教師」だと言う老人(ハル・ホルブルック)の理路整然とした反対意見が述べられる。スティーヴは狼狽え、3週間後の住民投票を了承してしまう。これは企業にとって大失態、更にそこに環境保護団体の若者が乗り込んで来て…というお話し。
原発建設の為に財政が疲弊している市町村へ乗り込んだ我が国の電力会社と似たような手法なので何処も同じだと感じ入る。が、米国流はリスクマネージメントが一枚も二枚も上、映画後半でアッという逆転が待っている。マット・デイモンが敢えて凡庸な人間を、フランシス・マクドーマンドも冷徹な凡庸とでも呼びたい、米国にも我が国にも中国にもゴマンといそうな人物をそれぞれ好演。人はどこまで倫理で踏みとどまれるか。あるいは踏みとどまることに無自覚な人間とどう対峙するか。拳銃もナイフも登場しないこの映画で、ガス・ヴァン・サントは静かに問いかけて来る。あなたはどちらですか、どうしますか、と。保証金ですぐに新車を買う男の低能ぶりと、のらりくらり調査員と環境団体のどちらの男も品定めする女のずるさ。雑貨店の男も、ニヒルぶって結局そっち(賛成派)かい、と。キャラクターの造形が凝っているのも面白い。佳作、お勧め。