映画的日乗

映画、食、人。西に東に。

「午後8時の訪問者」監督ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ at シネリーブル神戸

待望のダルデンヌ兄弟最新作。
フランソワ・オゾンはサボって観ないこともあるが、ダルデンヌは逃さない。
若い女性医師ジェニー(アデル・エネル)は大病院ではなく、診療所と呼ばれる下町の勤務医。往診はもとより、診療所の二階に住み込みで携帯電話に直接かかってくる患者からの愁訴に応える。映画は例によって不意に、何の衒いもなく彼女の日常から始まる。どんな患者も拒まないかに見えたジェニーだが、若い研修医に「患者に寄り添いすぎては駄目だ」と諭し、診療時間外の訪問者のブザーに応答しなかった。が、この訪問者が死体となって近くの川岸で発見される。診療所の防犯カメラに助けを求めるこの被害者が映っていたのだ。ジェニーは罪の意識に苛まれ、身元不明の遺体の身元を明かしたいと独自に行動を始める。殺人事件として展開して行くが、大仰なミステリーではなく原カトリック的贖罪と許しがテーマだ。
被害者に関わる人物は皆一様に一旦は真実を話さず、隠す。ジェニーが医師特有の知識で被害者を目撃した少年の嘘に気づくシーンが秀逸。登場人物は一様に貧しく、ジェニーに感謝する者もいれば偽の診断書を書けと凄むチンピラもいる。泡を吹いて苦しむ少年を傍観する研修医の独白、人の弱さを繊細に描くダルデンヌ兄弟の優しい眼差し。ジェニーを大きな穴に突き落としながら助ける少年、息子に関わらないでくれと罵倒しながらジェニーを緊急に呼び出す父にそれを感じる。ネタバレになるので詳細は記さないが、被害者の姉の登場シーンの印象づけの演出が巧い。
移民問題の深刻さも伺え、いつもダルデンヌ兄弟の映画につきまとう社会的格差問題も相変わらずなのだが、これからも人を助けて生きて行くであろうヒロインの粛々と仕事をこなす姿に希望が感じられ、即ちそれはダルデンヌ兄弟の、欧州には今こそ、人への分け隔てをしない寛容が必要なのだという力強いメッセージでもある。素晴らしい傑作、お勧め。


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