映画的日乗

映画、食、人。西に東に。

「家に帰ろう」監督パブロ・ソラルス at シネリーブル神戸

The Last Suit

原題はThe Last Suit、Suiteは懇願、願い。最後の願いあるいは最期の願いと訳せるが、着るもののスーツに意味を掛け合わせているということに映画を観ている間に気が付く。アルゼンチンの老人の、ブエノスアイレスからスペイン、バルセロナを経てポーランドのウッチへの帰郷の旅を描く。ウッチと言えば数々の名匠を生んだポーランドの映画大学がある所として認知しているが、先の大戦ではユダヤ人ゲットーがあった町でもある。映画は冒頭、戦前のユダヤ人家族の音楽会から始まり、一気に現代へ。家族に老人ホームに入れられそうになるアブラハム(ミゲレ・アンヘル・ソラ)が一着のスーツを持ってポーランドを目指す旅に出る。足に壊疽を患っているのか、切断するしないのやり取りがあるが、アブラハムは道中の見ず知らずの人々に助けられスペインに辿り着く。ここからポーランドまではドイツを経由する鉄道の旅となるが、彼はどうしてもドイツの地に足を着けたくないと拒む。が、贖罪を背負うと言うドイツ人女性の献身的な姿勢に対して、自らの迫害された時代を告白する。

 ひと昔前なら銀残しと呼ばれた色を抜いたルックと、戦前戦中の時代のシーンでは暖色系のルックを使い分けた演出。普通は逆にしがちだが主人公にとって、戦後から現代の移ろいは、常に心残りを身に纏った色のない世界であることの表現なのだろう。ラスト、ウッチのかつての自宅に辿り着いたアブラハム、外から中を覗くと見えた世界が暖かく色づいている。ニクい演出だ。ストーリーを語ることを急がず、旅のエピソードを重ねながらここへ持ってくるソラルス監督は脚本家出身とのこと。佳作、お勧め。