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「恐怖の報酬 」【オリジナル完全版】監督ウィリアム・フリードキン at 宝塚シネ・ピピア

www.imdb.com  フリードキンの持ち味は過剰さハッタリだ。先ごろネットフリックスで彼の最新作「悪魔とアモルト神父」('17)を観たがドキュメンタリーの体裁を取りながらまるで抑え切れないサガのように音声とカラーをいじって自身の「エクソシスト」('73)に繋げてしまうという過剰とハッタリが裏目に出ていた。

 さて、本作の最初の公開バージョンを1977年に神戸国際松竹で観ている私は、41年ぶりに宝塚の売布で再会を果たす。今回はオリジナル完全版、4Kデジタルリマスターだという。ここでは過剰とハッタリが良い塩梅となっており、お尋ね者、食い詰め者が高額報酬と引き換えに南米某国の油田火災を鎮火するべくニトログリセリンを運ぶ、という単純なストーリーを波乱万丈に描く。冒頭の殺し屋登場、これがのちにイスラエルに雇われた男とわかり、続いてイスラエルでの爆弾テロ、犯人はパレスチナゲリラ、この二人が「仕事」を通じて出会うという辺りは'70年代という時代を感じさせる。第4次中東戦争は1973年か。

 コッポラが「ゴッドファーザー」2作の成功で地位と資産を得て「地獄の黙示録」('79)にのめり込んで行った時期とフリードキンが「エクソシスト」「フレンチ・コネクション」('71)で「恐怖の報酬」に突き進んだ時期は重なる。恐らくはフリードキンがコッポラを横目に見ていたんだろうなぁ、アジアのジャングルのコッポラと南米のジャングルのフリードキン。コッポラの芸術家的苦悩に対して、フリードキンにはやはりハッタリ感が付き纏うが、それでも黒澤的豪雨の中でのあの吊り橋渡りは映画史に残る名シーンだろう。CGなし、勢いのよい炎と黒煙は'70年代のニューシネマ映画作家の時代を燃やし尽くした。タンジェリン・ドリームのサントラはエヴァーグリーンな名作。フリードキンの劇伴音楽の選定は天才的。佳作、お勧め。