映画的日乗

映画、食、人。西に東に。

「あの日のオルガン」監督・平松恵美子 at 神戸国際松竹

www.anohi-organ.com  長く山田洋次監督に仕えた平松恵美子監督の第二作は戦時中の疎開保育園の物語。

 私より3歳下の平松監督は当然ながら戦争を知らない。戦時中を知る山田洋次監督の深い怒りを込めた眼差しとは違う、半ば開き直った現代性を纏う。登場人物のハキハキとした物言い、明るいはしゃぎっぷり、時に今の言葉遣いを否定しない。それは「今に伝える」というベクトルによるもので成功している。一方で戦争批判、ムラ社会批判、男性上位の理不尽を声高には叫ばない。保母主任の楓先生(戸田恵梨香)がそれらの圧力に堪え切れなさそうになるとすかさず保育所長の田中直樹が謙って収める。

 この映画の秀逸な部分としてあるのは死の描き方である。もがき苦しんだり、残忍な死や死体の描写は一切なく、疎開保育園に訪ねて来た親たちが子供たちとの再会の時を慈しんだ後、すっぱりと消えていなくなる描き方をしている。死んだということを可視化しないことで不在の無念と戦争の不条理が粟立つ。一方で、男性が出征の為いなくなるということに女性たちが「どうしてですか!?」と二度(ある父兄と保育所長)に渡って詰め寄る描写は疑問。当時の常識からするとそれはあまりに保母達の方の想像力が足りないのではないか。

 玉音放送を使わないあの夏の日の描写が良い。そして「楓先生は私たちを通り越して、ずっと先にあることに対して怒っていたのね」という台詞、決して涙を見せず常に緊張感を態度に示していた彼女、しかし最後の最後に喪失感に襲われたその時、余韻を残すラストに素直に感動した。

 私の映画「ママ、ごはんまだ?」で映画デビューした堀田真由、去年「みとりし」で一緒に仕事をした白石糸、それぞれ難しい役柄を好演。佳作、お勧め。