映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「さよならくちびる」監督・塩田明彦 at OSシネマズミント神戸

gaga.ne.jp  冒頭、 黒いSUV車の中に座る男一人、女二人の行動と会話だけで見えて来る人間関係。終始引き気味のショット、一人の人物だけが居るように見せて、キャメラの位置が変わるともう一人人物がいる手法。映画的な密度の濃さにワクワクする。この三人が歌を歌いながら旅をするというだけで永遠の青春が予感される。口では「解散する」と言えば言うほど、だ。オツムの弱い子向けに量産されるイケメンキラキラエーガの、半分か三分の一くらいの製作費であることが冒頭のクレジットから想像出来てしまうが、そんなこの国の不条理をどんと引き受けながら塩田監督は日本列島の旅に出る。時にざわざわと木が揺れる風の強さは、勿論大型扇風機を用意した訳ではないだろう、台風が来るのを待っていた訳ではないだろう、偶然の産物なのにそれが彼女等の歌う詩の世界に心情的に重なるように見える奇蹟。

 ハル(門脇麦)の喜怒哀楽がはっきりしない顔、レオ(小松菜奈)の不安定ぶりがそのバックボーンに反映していて秀逸。ステージも熱くない、興奮せず淡々と歌う。タンバリンの男シマ(成田凌)の諦観と微かな希望が交互に現れる仕草と言葉。

 ちょっと小津の「浮草」('59)の鴈治郎を思い出させるシマの男っぷり。京マチ子がハルで若尾文子がレオか。小津の時代の風景の豊かさに反して、現代を旅する彼等が車のフロントガラスから見ている風景の貧相に情けなくなる。

 世界中にこんなバンドの物語が実際に今日も明日もゴマンとあるだろう。シマが過去の自分のバンドの話や、学生時代の親友と音楽のエピソードを話すが、映画の中でそれらは続き、音楽を巡る旅は延長され、物語は繰り返される、そんな暗示が素敵だった。