映画和日乗

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「COLD WAR あの歌、二つの心」監督パヴェウ・パブリコフスキ at テアトル梅田

www.imdb.com  戦後4年のポーランド、どこかの田舎町の民俗舞踊団の学校の様子から始まる。全国から歌やダンス自慢の若者が集まり、オーディションを受ける。パッショネイトな歌と踊り、何より人見知りしない押しの強さを持つ少女ズーラ(ヨアンナ・クーリク)に、審査員ヴィクトル(トマシュ・コット)はひと目で恋に落ちる。

 素晴らしかった「イーダ」に続くパブリコフスキ監督の昨年度カンヌ監督賞受賞作。引き続きモノクロ、スタンダードで前作ほど厳密ではないが画面下半分に人物を配置する構図。今回はズーラとヴィクトルがパリに渡ってからの時代、酔って踊るズーラがバーカウンターに登ったところでキャメラはバーンと跳ね上がり、躍動する。この転換にゾクッとする。説明を排した映画的演出も秀逸。舞踊団の管理部長がヴィクトルに「今まで民俗舞踊なんて興味なかったがこれは良い」と褒める。が、ヴィクトルは目も合わさず微かな微笑みを湛えて無視を決め込む。次のシーン、管理部長が舞踊団の監督とヴィクトルを呼び出し、スターリンを讃える演目を入れろ、と圧力をかける。ヴィクトルの態度だけで人間関係と時代を読み取らせる。パリに渡ったヴィクトルがズーラ会いたさにポーランドに戻るが国家反逆の咎で懲役15年に処される。ズーラは囚われのヴィクトルに「ここから出してあげる」と宣言。その次のシーン、歌うズーラのステージを見ているヴィクトル、例の管理部長が赤児を抱いて近寄る。「出してやるの苦労したよ」赤児を見たヴィクトル「生き写しですね」ズーラが歌い終わり二人の元にやって来る。管理部長は言う「ママが来たよ」。ズーラは管理部長の子を産んだのだ。それと引き換えにヴィクトルは罪一等を減じられた。赤児を巡る会話だけでズーラという女の恋のみに生きる激情を示す。惚れ惚れする巧みさだ。

 1949年から1964年までの15年、ひと組の男女の恋を88分で駆け抜ける。どんな男と女も恋の時間の灼熱の断片は、過ぎ去ってしまえばこれぐらいに凝縮されるものなのかもしれない。ラストは前作に引き続きまたしてもバッハ。音楽のセンスはこの監督の持つ才能の重要な要素である。愛の極北を見つめる二人が立ち去り、草原が揺れる、その計算し尽くされたタイミングに痺れる。エンドクレジットでこの映画が監督の両親の話であることが想像される。傑作、必見。