kosaku-movie.com キネマ旬報7月下旬号のユン・ジョンビン監督のインタビューによると「100%事実、とは言えないが無かったことを作り上げた部分は無い」とのこと。そう言われると俄然面白さが増す。
ことの発端は1992年、北朝鮮が核開発しているのではとの疑念を抱いた韓国政府直属の国家安全企画部が、ある軍人をビジネスマンとして北側と接触、核開発の証拠を掴もうとする。パク(ファン・ジョンミン)は有能な軍人だった事もあり、北側の商品を買い付ける商社の男になりきる。やがて本丸である北の要人にコンタクトを取ることに成功。パクは外貨不足で金が喉から手が出るほど欲しい北側に、北朝鮮の景勝地で韓国の商品のCM撮影をする、という企画を提案。北側のリ所長(イ・ソンミン)は何と最高指導者金正日にパクを引き合わせ、直接企画を提案させる。
こんな事が本当にあったのかとあまりの奇想天外な展開だが、金正日と言えば韓国の映画監督夫妻を拉致して怪獣映画をつくらせた男である。金王朝のお坊っちゃまなら然もありなんなのかも知れない。この映画が面白い理由は派手なアクションを排除し(つまり、そんな事はなかった)、ひたすらに交渉に徹するリアリティにある。ジャンルとしてのスパイ映画とは一線を画する。
平壌潜入に成功したパクは、北朝鮮の悲惨な人権状況も目撃、高官達が必ずしも金王朝に忠誠を誓っている訳では無いことを知る。この辺の描写は新鮮だし、北朝鮮の国内の描写(台湾でロケセット撮影したらしい)も精緻だ。
一方、韓国国内の事情の方が劇的に変化して行く。大統領選挙を巡って安企部はこの北の核武装疑惑の潜入捜査が邪魔になって来る。大局ではなく喫緊の利権事情を優先してしまうのだ。なるほどこの辺りの描写は昨今の日韓関係に照らし合わせると韓国政府の気質がよく分かる。馬鹿正直な正義論で彼らは動かない。善悪論ではなく、テーブルの上で罵り合って、その下で握手するというタフな建前と本音の使い分けこそが外交なのだ。ニッポン外交はあまりに純真なサムライなのかも知れない。
映画のラスト、そう言えばこういう南北のモデルの共演ってニュースを見た事あるな、と思ったらこれ
そうか。そうだったのか。そしてこのCM撮影の現場でパクとリ課長の再会が本作の見どころ。ここは事実であれどうであれ見事に「映画」になっている。ある種理想主義的な終わり方であり、いつかは統一、という建前としての悲願と今も続く南北分断(のままで良い)という本音へのこの映画の作り手からの異議申し立て、と見た。
今の日本の内政問題として「新聞記者」外交問題としてこの「工作」、必見。