映画的日乗

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「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」監督クエンティン・タランティーノ at 109シネマズHAT神戸

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 タランティーノ最新作は1969年のハリウッドが舞台。撮影所が映画よりテレビドラマ製作の比率が高い時代。20世紀フォックスの「トラ!トラ!トラ!」('70)の看板が見える。実在した映画、実在した映画人達に混じって架空の二人、リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)とその影武者的スタントマン、クリフ・ブース(ブラッド・ピット)の日々を丁寧な描写、というか意図的にどうということのない時間経過を綴って行く。クリフが延々と車を運転する。その先に何がある訳でもなく、ただ帰宅する。しかし、その道中の1969年という時代の再現ぶりに凝る。そしてタランティーノらしい、「もしも〇〇が△△だったら」の連続。もしもクリフがブルース・リーと闘ったら。もしもリックがマックイーンの代わりに「大脱走」('63)に出演していたら。もしもリックがセルジオ・コルブッチ監督のマカロニウェスタンに出演したら。

 そして極め付けはもしもリックがロマン・ポランスキー監督の隣の家に住んでいたら。ポランスキーの当時の妻だったシャロン・テート(マーゴット・ロビー)のイノセントぶりもタランティーノは愛でるように描く。その先に忌まわしいチャールズ・マンソン事件が起きたかと思うといたたまれない。が、映画はパラレル・ワールド的展開となり、かの事件は漫画的だが平和的な終焉を迎える。

 テレビドラマ優勢、ロケ中心のニューシネマの時代、大作はまだ当時黒澤明が監督するはずたった「トラ!トラ!トラ!」。ハリウッドの現代史の中では撮影所が不況とされる時代、だがマンソン事件を境目とするならばそれはまだ牧歌的な時代だった、というのがタランティーノのこの結末なのでは、と。スピルバーグの登場とコッポラ、フリードキンの隆盛は'70年代からである。鮫とマフィアと悪魔祓いというショッカーの時代以前。

 何故かしみじみと良い気分に浸れる、映画的教養が問われる佳作。