映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「日本列島」監督・熊井啓 at 京都文化博物館フィルムシアター

www.kinenote.com 1965年日活。プリント、音響は頗る良好。

 戦後史に幾ばくかの知識がないと置いて行かれるほどてんこ盛りに事件が起きる。端を発するのは戦時中に存在した陸軍登戸研究所。1959年(昭和34年)米軍兵が変死体で海から上げられるも事件の真相は有耶無耶に。死体は警視庁の抗議虚しく米軍が持ち去ってしまう。しかし関東某所の米軍基地内の犯罪捜査課は英語の話せる日本人職員、秋山(宇野重吉)に再捜査を依頼する。これに新聞記者達が加担するも米軍ですらアンタッチャブルな組織の存在に突き当たる。CIAという単語は出て来ないが登戸研究所を戦後解体せずにCIAの極東別働隊のような組織に再編入させたニュアンスである。

 登戸研究所で偽札製造を行っていた際に使われていたドイツ製印刷機と、製造に当たっていた技師が行方不明に。やがて口を割った研究所員やアヘン密輸に絡んだ客室乗務員などが次々と変死していく。この恐ろしい組織の黒幕役が善人役の多い大滝秀治。検索すると撮影時には40歳前後。昔の役者は貫禄が違う。下山事件も説明的に挿入されるが、熊井啓監督はのちにきちんと「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」('81)として映画にしている。本作も「日本の熱い日々」もそしてのちの「日本の黒い夏 冤罪」('01)も新聞社や報道局が舞台になっており、いずれの作品に於いても熱気とエネルギーが感じられる。熊井監督には「真実を伝える」というテーマに格段の思い入れがあるようだ。

 が、しかし全ては黒い組織、即ち米国の権力下にある「手を汚す」別働隊によって揉み消され、闇に葬られる。

 ひっきりなしに空を飛び轟音つんざく米軍機の画がしばしば挟まれるが、アメリカに戦争で負けるということはこういうことなのである、という諦観ではなく、国会議事堂の前を凛々と歩く父を殺された芦川いずみの横顔という未来志向の描写で映画は終わる。翻って現代、米国傘下から抜け出そうとするどころかずるずるべったりを良しとしている体制が確立している。本作には登場しないが、1959年の日本国首相はあの岸信介なのであった。

 

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神戸市中央区中山手通1「串かつ 大原」

神戸で馴染みの店として通う店の一つ。気取りがなく、本当に旨い。

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「15ミニッツ・ウォー」監督フレッド・グリヴォワ at Cinema KOBE

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 ひっそりと公開された故に見逃してしまう私ごのみの映画をかけてくれるCinema KOBE。今作はオルガ・キュリレンコ嬢目当てで駆けつける。オルガ嬢といえば「ロープ /戦場の生命線」('15)もここで観たのだった。

 1976年のジブチ、当時はフランス領。ある小学校のスクールバスが武装テロリストに乗っ取られてしまう。黒人の子供もいるので白人専用のプライヴェートスクールではないようだ。フランス政府は即座に対応、まず外人部隊が出動、続いて米CIA。米国人の子弟が人質になっているからだけではない。隣国ソマリア、その後ろにはソ連が控えておりテロリスト達はソマリアと連携してフランスから独立したいのだ。ソ連の影響力が大きくなってはたまったものではない、というのが米国の本音。

 仏政府は精鋭の特殊部隊5人を送り込む。この5人が全く精鋭に見えないところが面白い。お洒落に気を遣い、屈強な感じがしない。背が低かったり、デブだったり。リーダーのジェルヴァル大尉(アルバン・ルノアール)も細身で学者風だ。現場に到着するも外人部隊の指揮官からは馬鹿にされ、兵士達からも揶揄われ喧嘩になる。一方ハイジャックされたバスに担任教師のジェーン(オルガ・キュリレンコ)が軍人を振り切って乗り込む。5人の狙撃隊がバス全体を見通せる位置を見つけ、ここから神経戦が始まる。パリの中央政府は彼らに訳の分からない命令を下した為作戦が実行できない。まさしく「事件は会議室で起きているんじゃない」なのだが、これに唯々諾々従う外人部隊指揮官。こんなかっこ悪い、そして最後までダメダメな外人部隊は映画とはいえ初めて観た。テロリスト達が兵士一人を射殺した事で、ジェルヴァル大尉は作戦決行を決意する。気丈にして果敢なジェーンは献身的に協力し、テロリスト達は殲滅されるもソマリア軍が国境を越えて攻撃して来る。ソ連軍の軍事顧問みたいな輩が指揮を執っているのが見える。大尉を初めとした狙撃隊は応戦、これが百発百中なのがちょっとマンガチックで気を削がれる。

 結果、バスの子供達から一人の犠牲者が出てしまう。中央の命令に背いた作戦だった為、フランス政府は知らんぷり、ジブチはこの事件の翌年に独立、とのエンドロール。ウィキによると独立後から現在に至るまで未だにフランス軍の基地があり、大規模に展開をしているようだ。つまり対ロシア防衛線ということなのだろうことが本作から想像される。

 タイトルの15分戦争よりもそれ以前の神経戦が見どころ。

 

 

 

大阪市北区梅田2「BLT STEAK OSAKA」

BLT STEAK OSAKA

 
 
 
 
 
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#vinestarr #zinfandel #broccellars #sonoma #sonomacounty

Tボーンステーキほか。絶品。

「台湾、街かどの人形劇」監督・楊力州 at ユーロスペース

machikado2019.com

 侯孝賢監督が監修。侯監督の名作「戀戀風塵」('87)に登場し、「戯夢人生」('93)でその半生を描かれることになる布袋戯の名人、李天禄の息子、陳錫煌を追うドキュメンタリー。陳氏の人形を動かす手と指の動きが繰り返し映し出される。日本の文楽にしても他の国の人形劇にしても、人形を操るのは糸であったり細い棒であったりするが、布袋戯は読んで字の如く布の袋を手そのものに被せて動かす。それも両手を使って、時には飛翔し左右が入れ替わる。いやとても昨日今日で出来る芸当ではない。当然長い訓練と修業を要するが、陳氏は齢八十を過ぎても「李天禄の息子」と呼ばれ(李天禄本人に間違われてアナウンスされてしまうシーンがある)てしまう程先代は偉大なのであった。

 満身創痍の陳氏だが、エネルギッシュに台湾全土で活動を続ける。それは伝統の継承を使命としているからだ。が、台湾各地で布袋戯は絶滅の危機に瀕していて、たまにコンテストもあるのだがUFOも登場するマンガチックな現代風にアレンジされており、陳氏は憤慨する。後継の弟子も登場するが人間関係が複雑なのか、どうも盛り上がりに欠けている。何処の国も希少芸術の存続は行政頼りで、台湾もご多分に漏れない。劇団結成には申請してから三年を要するのだと言う。ようやく嘗てのメンバーが再開してのフルオーケストラによる布袋戯がクライマックス。が、楽団のメンバーはこの後櫛の歯が欠けていくかのように亡くなって行く。

 ラスト、陳氏の記録、伝承、後継への涙ぐましいまでの奮闘ぶりに、すぐにでも台湾に行って布袋戯を見たくなってしまった。