1989年から'90年にかけて7人の男を殺害し、2002年に死刑執行された、
実在の娼婦アイリーンの物語。アイリーンを演じるのはシャーリーズ・セロン。
カリカチュアライズした人物像を演じるのではなく、その真逆の、容姿から完璧に
なりきる方法論でオスカー主演賞を獲得。見事な化けっぷりに感服する。
絵に描いたような不幸な生い立ち、それ故の無知で、風呂も無い倉庫のような
掃き溜めに住み、春をひさぐアイリーンに、これまた複雑な家庭環境でレズビアン
のセルビー(クリスティーナ・リッチ名演)が近づいて来る。この女がアイリーン
にとって災いの神となり、他者から愛されたことの無いアイリーンは、
愛されたいが為に殺人を繰り返す。この辺りのレズビアン感覚は女性監督ならでは
の細やかさで見事。観る側に、「連続殺人犯が死刑にされるまで」という
汎論的なストーリーラインが知識としてインプットされている可能性を百も承知で、
ひたすらにリアリズムを貫く演出は、久しぶりに良質のアメリカ映画の匂いを
思い出させる。そう、'70年代ニューシネマのそれだ。ラスト、法廷で滔々とアイリーンに
罪をなすりつけるセルビーの言葉に「うん、うん」と頷くアイリーン、
嗚呼この女はとことん愛を知らないと思うと、不覚にも涙がこぼれる。
話しは陰々滅々だが、嬉しい佳作。
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