映画和日乗

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「ビヨンド the シー〜夢見るように歌えば〜」監督ケビン・スペイシー at シネリーブル神戸

 1960年代に活躍し、37歳で夭折したアメリカのショー・マン、ボビー・ダーリンの一代記。
恥ずかしながらボビー・ダーリンなる人を知らなかった。ひと言で言えばフランク・シナトラになれなかった男であり、シナトラが一流だとしたら、あくまで二流だったという印象をこの映画で持った。
しかし、あの「セブン」('95)で残忍無比な男を演じたケビン・スペイシーが初監督作として自ら歌って踊るこの企画を温め続け、実現させた愛情と執念は痛い程伝わって来る。
それは、ここにある「佳きアメリカ」がベトナム戦争以後完全に失われてしまったという喪失感と悲壮感に重なる。それが証拠にこの映画、イギリスとドイツの合作だ。
ケビン自身がハリウッドを駆け回って資金繰りをしたに違いない、しかしこの「佳きアメリカ」がアメリカ製では実現できなかったということにハリウッド=アメリカの堕落と疲弊を物語っていると断じるのは穿ち過ぎか。
ともあれ、往年の前田五郎師匠のような無茶苦茶なファッションセンスで歯の浮くようなロマンティシズムを謳歌し、踊る、楽しさ故に泣けてくる、素晴らしき佳作。お勧め。