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「ヴェラ・ドレイク」監督マイク・リー at シネカノン神戸

現代英国映画界のトップ・ディレクター、マイク・リー最新作。
1950年の英国、ロンドン。家政婦ヴェラ(イメルダ・スタウントン)は、自動車修理工場を兄弟で営む夫、仕立て屋の息子、地味で奥手だが気だての優しい娘と共に、起き上がる事も侭ならない母の介護までしながら日々働き詰めだ。それでもいつも明るく、第二次世界大戦九死に一生を得た夫を敬い幸せな家庭を築いている。近所に住む、家族をドイツ軍の空襲で喪った青年の縁談まで気にかけ、自分の娘を引き合わせる。無類のお人好しで愛すべき「下町のおばちゃん」なのだが、誰にも言えない闇の仕事に手を染めていた…というお話し。
これまで脚本なしで俳優と共に台詞や動きを作り上げて来たリー監督、題材を50年以上前の過去に求め、これまでと違った趣き。今回も脚本なし、だったそうだが、構成台本として眺めると実に古典的で新味の無いものだ。ラストに至るまで何の変哲も無いとも言える。娘の婚約パーティでヴェラの所業が白日に晒されるなど、構成の「いろはのい」で、全体的に「それがどうした」という話しと言えば言い過ぎか。
しかし勿論これは監督の狙いでもあると思われる。
この映画で刮目すべきは俳優、なのだ。単純な構成のドラマで、存分に俳優の力を見せつけ、いち個人としてのキャラクターを鮮明にする。一方でヴェラが「何故そこまで無垢なのか」という深層心理はベールに包み、観客の内面に委ねている。実年齢は49歳のイメルダ・スタウトンは、主にTVドラマで活躍している女優だそうだが、ヴェラという50年前に居た60歳手前くらいのおばちゃんの霊が憑依したかの如く、化けもの級の演技だ。幸福と不幸は表裏一体であることを表すかのような、ドレイク家室内の黒地に花柄の独特な壁紙が印象的。

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