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「カポーティ」監督ベネット・ミラー at 梅田ガーデンシネマ

「冷血」で知られる作家トルーマン・カポーティという名前は、個人的には「ティファニーで朝食を」('61)の原作者としてより、「名探偵登場」('76)での演技者としての印象が強かった。
 これがデビュー作となるミラー監督は、そういった彼の目立ちたがり屋で、自己愛が強く、しかもゲイである側面を冒頭から強烈に見せつける。演じるフィリップ・シーモア・ホフマンも、「オスカー穫るでぇ!」とばかりの渾身のなりきりぶりはやや過剰ですらある。これでただの「作家の伝記映画」ではないことを示してから「冷血」がいかにして書かれて行ったか、を描いて行く展開はなかなか巧妙だ。一家4人が惨殺された事件を取材するカポーティと"秘書"であるハーパー・リー(キャサリン・キーナー)は、捜査にあたる刑事の家庭に取り入る事に成功し、やがて捕われた犯人二人と面会する。そのうちの一人、ペリー(クリフトン・コリンズJr.)との対話がカポーティに精神的な化学変化を及ぼす。不幸な生い立ちにシンパシーを感じつつ、彼自身の作家としての「傑作になる予感」からペリーに対して「冷徹」なるインタヴューを続ける。が、パラドキシカルに愛情さえも示すカポーティの複雑さ。つまり「冷血"In Cold Blood"」というタイトルは、犯罪そのものの残忍さと共にカポーティ自身の精神構造を指している事に気づく。
 鉄格子の中で延々と続く彼らの会話は、演出としては冒険であるはずだが、ひるむことなくフィックスのショットを繋ぎ続けるミラー監督のタフぶりに感心したと同時に、これはやはり役者の力量なんだろうな。力作、お勧め。