映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「幸福のスイッチ」監督・安田真奈 at シネカノン神戸

和歌山県、みかん畑の広がる農村にある電器屋が舞台。主である稲田誠一郎(沢田研二)が大怪我で入院、その娘達が店を切り盛りしなければなくなった。母親は既に他界、長女(本庄まなみ)は妊娠8ヶ月、末娘(中村静香)は高校生。東京のデザイン事務所に勤める次女・怜(上野樹里)がいるが、父親に最も反発しており、帰って来そうもなかったが、一計を案じた末娘の策に乗せられ、呼び戻される。小さな村での退屈な電器の修理作業に最初は無気力だった怜だが…というお話し。
4、5年前だったか大森一樹監督に「安田真奈、ええんちゃうか」と言われ、彼女の自主製作作品の予算表を作ってあげた身として「いやー」と答えた記憶があるのだが、その安田監督の劇場用デビュー作。一言で言えば格段に巧くなっている。その成功要因は怜というヒロインの生理を、安田監督自身の生理に忠実に重ね合わせて描いていったことではないかと思われる。変にストーリーを「つくらず」、生理的衝動にまかせたような、このノーメイクのヒロインの思考や動きに寄りかかっているところが素敵だ。ちょっと「恋する女たち」('86)や「トットチャンネル」('87)を思い出させる細かいギャグの連打も楽しい。一方で怜のかつてのクラスメート(林剛史)の軽薄ぶりと、父・誠一郎の"浮気"が怜にとって不快であるという男性に対する「固さ」はやや幼いかも。しかしそれもまた安田監督の等身大の生理感覚なのだろう。かなりくどいテレビ的説明台詞やカットが玉にキズだが、それは今後の課題でしょう。沢田研二ってやっはり歌手だなぁ。発声が良過ぎる。