映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「あるいは裏切りという名の犬」監督オリヴィエ・マルシャル at シネリーブル神戸

パリ警視庁、折しもひとりの捜査官の退任の集いが開かれていた、仲間の刑事達はひどく荒くれだが、深い友情で結ばれている。その翌朝、強力な武器を使った現金輸送車襲撃事件が発生する。この犯人グループは既に同じような手口で荒稼ぎしており、彼ら現場の刑事達は上層部の批判に晒されていた。この捜査に当るのが、ヴリンクス(ダニエル・オートゥイユ)の班と、ドニ(ジュラール・ドパルデュー)の班。実はかつてひとりの女性を奪い合った仲であり、出世競争の相手でもあった。捜査は強引だが部下の信頼の厚いヴリンクスと、強烈な出世欲で手段を選ばないドニは襲撃事件の犯人グループを一網打尽にする作戦に於いて、決定的な決裂を見る…というお話し。
マルシャル監督は元警察官にして俳優→脚本家→監督というキャリア。公式webの資料によると、共同脚本の元刑事ドミニク・ロワゾーの実際の体験が基になっているらしい。強烈なアップショットの切り返しの連続は男対男のパッションをむき出しに提示し、アクションシーンの迫力は素晴らしい。一方でヴリンクスが仮出所した男の言いなりになって報復殺人に「結果的に」手を貸すあたりはやや強引(というか間抜け)な印象だし、ドニと、ヴリンクスの妻をめぐる過去の恋愛関係がよく見えない為、ドニがただのダーティ野郎に淫してしまっている(その為ラストの対決が唐突)など瑕疵もなくはないが、やはり事実は小説より奇なり、つくり手達の体験が細部まで行き届いていて、キャラクター重視の演出は成功している。現場の警官達の浪花節的人情と情念は不思議と昔からフランスのフィルム・ノワールに底流しており、ご贔屓のダニエル・デュバルがそのキーパーソンで嬉しかった。