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「プルートで朝食を」監督ニール・ジョーダン at パルシネマしんこうえん

プルートで朝食を [DVD]

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アイルランドの田舎町、教会の玄関に捨て置かれる赤ん坊、それを抱き上げた神父(リーアム・ニーソン)にはその赤ん坊の両親について「思い当たるふし」があった。何故なら父親は自分であったからだ。その子パトリック(キリアン・マーフィー)はそれを知らされず里子に出される。自らをキトゥンと名乗って、女の子になりたいと空想ごとばかり思い描く"少女"となり、保守的なカソリック学校を飛び出し、ロンドンへと向かう。自分の生みの母親を探す為に…というお話し。
IRAアイルランド紛争、そして性同一性障害というカードはジョーダン監督の「クライング・ゲーム」('92)と同じ。つまり敢えてそのテを使ってでも映画にしたというのは彼のこの世界への愛着と監督としての矜持であろう。そしてそれは素晴らしく巧い物語の語り部の手腕として発揮されている。男に優しくされることでIRAの武器庫番にされてしまい、それが仇となって男に逃げられる、「全部分ってた、それでも良かった」とつぶやくカット、ロンドンの風俗街で働くキトゥンにマジックミラー越しに真相を告白する父親の「懺悔」ぶり…巧い。本当に巧い、ニール・ジョーダン
キトゥンが実の母親と遂に対面した時、全ての自分の素性を覆い隠してしまう切なさ…それは常に現実逃避し、空想に生きることで自分を安定させて来たキトゥンが、実の母親と向き合うという望んでいたはずの現実に於いては、ひとかけらの自我も表せなくなってしまうということ。
テンポ良し音楽良し、ラストに至っては因果の全てを背負ってなおベビーカーを押し、「兄弟」に囁くあのひと言の台詞の巧さに唸った。傑作、お勧め。