映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「善き人のためのソナタ」監督フロリアン・ヘンケル・ドナースマルク at シネリーブル神戸

原題は「他者の人生(あるいは生活)」、これは他人の生活を覗き盗聴するという意味と、「自分以外の人生」という意味、更には他者のために生きるという三つの意味が込められていることに観終わって気づく。
1984年の東ドイツ、シュタージと呼ばれる国家保安省つまり秘密警察に勤務するヴィースラー大尉(ウルリッヒ・ミューエ)はある演劇演出家と女優の住むアパートの監視の任務に就く。完全な盗聴体制で四六時中見張るのだが、やがて女優クリスタ(マルティナ・ゲディック)への思慕と、聴こえて来たピアノの音によって自らの人間性に目覚めて行く。やがて演出家とその仲間達が東独の自殺者数についてのレポートを書き始めるが、ヴィースラーは監視によって彼らを「サポート」する…というお話し。
沈鬱なブルーが支配するルックがあの時代の東独の暗黒を示す。赤が無いなと思っていたら肝心なところで赤が使われる。ヤルなあと感心。ヴィースラーを演じるウルリッヒ・ミューエが凄い。この人「スパイ・ゾルゲ」('03)にも出ていたが、ここでは圧倒的な存在感であり、監視国家体制における怜悧な役人という役柄を超えて、普遍的に誰もがもつ「本音と建前」を表現して見事だ。中盤からのテンションは途切れることが無く、手に汗握るサスペンスだがこの監督決して暴力を描かない。多分に拷問や粛正などあったと想像されるがそこはソフトに逃げている。
「事件」の後日談がしつこいなと思っていたら、胸に迫る「オチ」を見せつけてくれてここでもまた得心感心。そしていつの日か北朝鮮の実態が描かれる時が来るのだろうかと思いを馳せる。佳作、お勧め。
善き人のためのソナタ

西林初秋氏と樋口CEOとで神戸サウナへ。