映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「叫」監督・黒沢清 at シネリーブル神戸

東京湾岸、赤い服を着た女性が強殺されるシーンから始まる。荒涼とした風景と、その残忍な手口がリアルな恐怖感を喚起する。が、一転、捜査にあたる警察署内部のセットデザインがまるで廃工場のようで、観る者をリアリズムとシュールの中間という、純度の高い映画的空間へと誘う。更に続く第二、第三の殺人は、昨今の現実社会で起きる、希薄で短絡的な動機による殺人を連想させる。と、そこへ'50年代ハリウッドの手法であるスクリーンプロセスによる自動車運転のカット。つまり、前作「LOFT」('06)に引き続き、リアルと非リアルが混在することで映画の流れを意図的にギクシャク、あるいは混乱させる手法が取られており、更には「堂々と登場する幽霊」という展開に呆気にとられると同時に、黒沢監督の用意周到な演出設計を楽しんでしまった。
殺人事件ミステリーとしての「辻褄」を合わす無理を止め、幽霊のせい、という曖昧にして大胆な帰結も成功している。撮影・照明秀逸。