映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「ノーカントリー」監督イーサン&ジョエル・コーエン at OSシネマズミント神戸

 テキサス、広大にして殺伐とした砂漠に転がる死体が数体。
それが拳銃や機関銃による同士討ちであることがすぐ解る。
それを見つけた男、ルウェリン(ジョシュ・ブローリン)は現場にほど近いところで見つかった麻薬取引の資金を手に入れる。が、ちょっとした心の変質から冷徹残忍極まりない殺し屋シガー(ハビエル・バルデム)につけ狙われる…というお話し。
ロクに捜査もせず御託を並べる保安官(トミー・リー・ジョーンズ)がテキサス人気質の変容を嘆く。アメリカの他国との戦争の歴史は、真偽はともかく、常に正義がお題目であった。がベトナム以降(この映画は1980年が舞台。湾岸もイラクもまだだった)、国家の内なる正義、モラル、理性が崩壊しているのではないか、と聞こえるのは読み過ぎか。が、コーエン・ブラザースたるものそんなメッセージを直截にぶつけてくる訳ではない。むしろそれをはぐらかし、おびただしい出血をしながらも欲得を捨てきれないルウェイン、感情のない殺戮を続けるシガーを描くことで、人間の「化けの皮の下」を見せてくれている。カタルシスはない。が、この冷たいカミソリで皮膚を撫でられるような感覚は鋭く、そして時間差で脳裏に貼り付いて行く感じだ。今年のオスカー4冠、佳作。