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「マンデラの名もなき看守」監督ビレ・アウグスト at テアトル梅田

資料によると、フランス、ドイツ、ベルギー、イタリア、南アフリカの合作。監督はデンマークの巨匠、ビレ・アウグスト。つまりハリウッド資本、ハリウッド人脈でつくられたのではなく、かつてアフリカを植民地とした国々によってつくられている。深読みするまでもなく、派手なエンターティンメント色よりは贖罪意識が働いているように見える。
27年間投獄・幽閉された後、南アフリカの大統領となったネルソン・マンデラ(デニス・ヘイスバート)は、実にインテリジェンスに溢れ、強靭な信念の人。決してぶれない。一方、幼い頃にアフリカ原住民と生活をした経験のある看守(ジョセフ・ファインズ)は自己矛盾に苦悩し、罪の意識に苛まれる人物として描かれている。良き家庭人として出世を望む為にマンデラを監視し続ける一方、深層心理では幼児体験から黒人に対して明確な差別が出来ない。ここで対極にあるのは彼の妻(ダイアン・クルーガー)で「健全なる差別主義者」として黒人蔑視・隔離は当然と主張する。
映画が始まってかなり早い段階で看守がマンデラにシンパシーを抱き始めるのは意外だったが、そのせいで展開のスピードが早く、飽きることなく「刑務所の中の日々」の緊張感が途切れない。27年間を2時間で描く手法としてはこうするしかなかったのだろう、時代のセンテンスもかなり端折られており、マンデラの苦闘と苦渋はやや薄まってしまっている印象はなくもない。実際'90年に釈放された直後のマンデラは名状し難い疲労ぶりだったらしい。
とはいえかつてのフレッド・ジンネマンを彷彿とさせる気品と風格を感じさせるアウグスト監督の高潔な演出には敬服する。ネルソン・マンデラについて何も知らなかった不明を恥じつつ、お勧め。