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「フロスト×ニクソン」監督ロン・ハワード at シネリーブル神戸

原題は"Frost/Nixon"、slashが邦題とは違う深い意味を与えている(何で変えたのか不可解)。
実話の映画化だが、元は英国で上演された舞台劇。舞台でのニクソン役を演じたフランク・ランジェラがそのまま映画でも演じている。
1972年のウォーターゲート事件で黒幕として追い込まれた第37代米国大統領リチャード・ニクソンは'74年に任期半ばで辞任する。そのニクソンへのロングインタビューは申し込みが殺到したが、ギャランティとして最高額を提示したのはアメリカ三大ネットワークではなく、英国でトークショーの司会をしていたデイヴィッド・フロスト(マイケル・シーン)であった。新聞記者でもなく報道キャスターでもないフロストは、資金が足りないにもかかわらずこの話しをふっかけ、ニクソンは「与し易し」と踏んで乗る。かくして8日間に及ぶVTRインタビューが始まる…というお話し。
実話、そして殆ど二人芝居ともいえる舞台劇から映画として成立させるにあたって、監督ロン・ハワードはいくつかの仕掛けを緻密に仕組んでいる。功名心と金銭欲の固まりのような男としてニクソンは登場し、それに対してヤマっ気とコンプレックスはひと一倍、女好きで「ええ加減」そうなフロスト。slashの意味の一つ「あるいは」「どちらでもよい」が当てはまる両者の俗物ぶりだ。しかしインタビューが始まった瞬間、観る者を唖然とさせるニクソンのプロの政治家への変貌ぶり。ここは圧倒的だ。口を半開きにして「打たれるまま」のフロスト。フランク・ランジェラの独壇場であると同時にこの仕掛けがまず効果的。更に後半、「11対0」のコールドゲームかと思われた戦いに、フロストの最後の逆襲が始まる。slashのもう一つの意味は「斬りつける」「鞭打つ」だ。この逆襲と逆転勝利のカタルシスは痛快。ランジェラの一世一代の名演(オスカーノミネート)に尽きるが、職人ハワードの計算にも唸らされる。ラストにドナ・サマー"I Feel Love"がかかる。あの時代を知る40代以上にお勧め。