映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「わたし出すわ」監督・森田芳光 at 梅田ブルク7

北海道、函館。東京から何年かぶりに帰郷した摩耶(小雪)は、マンションを借りかつての同窓生達と連絡を取る。それぞれ地元で社会人として過ごす彼らは小さな夢があったり、悩みがあったりで田舎特有の閉塞感の前に立ち止まっている。摩耶はそんな彼らに「わたし出すわ」と大金を差し出す。市電の運転手(井坂俊哉)はそのお金で世界の路面電車巡りをしたい夢を果たそうとし、特異体質でタイムの延びないマラソン選手川上(山中崇)は米国に渡って手術をする。夫に先立たれ元の仕事であるクラブホステスとなったサキ(黒谷友香)は摩耶から金塊を受け取り再び玉の輿に乗ろうとするが…というお話し。
ときめきに死す」('84)以来函館ロケの多い森田監督、きっとその澄んだ空気感に惹かれてのことだと思うが、今作ではやや趣きが違う。殆どのシーンが曇天、あるいは雨。それも美しいとは言いがたいべちゃべちゃとした雨。それらは地方都市に生きる30代の閉塞感のメタファーに見える。
その一方で"森田節"というか、見ていて大変心地よいスタイリッシュぶりはリアリズムを避ける。言い換えれば、どの人もクールでカッコ良いのだ。言葉も全て標準語である。金持ちの男に依存することしか考えていないサキ以外は性的な匂いも全くない。水産研究で画期的な発明を目指す保利(小澤征悦)と摩耶、しばしばその家にまで訪れる川上と摩耶の関係もよく分からない。手すら握らないし、ましてや結婚のケの字も出ない。その理由を一瞬彼女の出自を暗示させるカット(ネタばれになるのでここでは伏せる)で示してはいるのだが、過去の情念は注意深く避けられている。夫婦ものもいるがどこにも子供はいない。子供は大人の青春のエネルギーを消してしまうからだろうか。
これら一切の"森田節"は見ている心地よさに反してキャラクターの不可解さを際立たせる。小雪も、小池栄子も情動に於いては「そんな訳ないだろ」と感じてしまった。「金に転ぶ」黒谷友香小山田サユリの方がリアルである。これ大阪が舞台だったら全然違う話しになっていただろう。
あるポジションで撮り続けるカットを、台詞の間合いで突然左に右にと微妙にずらす独特の撮影・編集方法が新鮮。
ペラペラでカチャカチャなテレビドラマの延長映画に比べるとしっとりしっかりつくられていてほっとする思い。餅は餅屋です。黒谷友香ベストアクト。