映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「誰がため」監督オーレ・クリスチャン・マセン at テアトル梅田

原題は主人公ふたりの名前「フラメンとシトロン」。
1944年のデンマークコペンハーゲンナチスが進駐し、傀儡政権が支配している中、ナチスとその協力者を次から次へと抹殺していくフラメン(トゥーレ・リントハート)とシトロン(マッツ・ミケルセン)。2人は国内の反ナチス抵抗組織に属していて、数人の仲間と、「ロンドンからの指令」を彼等に命令するヴィンターなる男によって組織されている。ヴィンターからの殺人リストに沿って任務を遂行する2人だったが、ドイツ軍人のギルバートの暗殺に失敗する。それはフラメンが彼の言動に翻弄されたからであった。そしてヴィンターに情報を運んでいるという女ケティと情を通じてしまうフラメン。一方、実際に殺人に手を下すフラメンに対し、「人を殺したことがない」シトロンは、任務に没頭するあまり妻子に去られてしまう。そんな2人にとって最大の標的はゲシュタポ高官のホフマン(クリスチャン・べルケル)なのだが、ヴィンターは何故か頑にホフマン暗殺を禁じる。やがて抵抗組織の仲間達がナチスに捕まって処刑されてしまう。そのことによりケティの二重スパイ疑惑が持ち上がり…というお話し。
まずチェコでロケされたという実に端正なルックに目を奪われ、画面の豊かな広がりと、血圧が上がりっぱなしになる緊張感を持続する脚本・演出に舌を巻く。中盤以降、人物が入り乱れスパイだらけでやや混乱するが、それとても現場で敵味方が分からなくなってしまう彼等の混乱する心理に重なってさえ見える。単なる極悪人として描かれないゲシュタポ高官ホフマンの怜悧ぶりが素晴らしい。
トゥーレ・リントハートの拳銃を撃つ時の貴族的な佇み方、クリスチャン・ベルケルの最後の最後に着るナチの軍服姿は映画的に映えて残酷な美しさを湛えている。
後半、感情の乱れと焦りから作戦失敗、敗走する彼等の「冷徹になりきれない人間らしさ」が哀れだ。
ナチハンター、と言うと昨年のタランティーノ作品が想起されるが、やはりこうした真摯かつ重厚なヨーロッパテイストには溜飲が下がる。真面目な佳作、お勧め。