フランス語のクレジット・タイトルに続いて舞台は現代のロシア、モスクワのボリショイ劇場。
清掃係のアンドレイ(アレクセイ・グシュコブ)は旧ソ連、ブレジネフ政権下のボリショイ管弦楽団のコンダクターだった。政治的理由(それはのちに判明する)で職を追われ、楽団員は散り散りに。
ある日フランス、パリから現在の管弦楽団への演奏依頼がファックスで届いたのを盗み見たアンドレイは、かつての仲間を集めてパリに乗り込むことを計画。
その為に、アンドレイは自分の指揮棒を折って追放した元劇場支配人にしてKGBの手先、ガヴリーロフ(ヴァレリー・バリノフ)を担ぐ。ガヴリーロフは怪しいフランス語を駆使してまんまとフランス・シャトレ座側との契約を取り付ける。アンドレイの悲願はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の指揮。パリでの公演にスターであるアンヌ=マリー・ジャケ(メラニー・ロラン)を指名する。アンヌのマネージャー(ミゥミゥ)はアンドレイと曰くありげなのだが、アンヌは演奏を引き受ける。オーケストラの要員が足らず、ロマの楽団員まで加えた寄せ集めの一行はパリに到着するのだが、一夜にして彼等は好き勝手な行動に。またガヴリーロフのパリ行きの真の目的は演奏会ではなかった。一方、アンドレイの言動に不審を抱いたアンヌは演奏会の中止を申し出る…というお話し。
外側から見たロシア人あるいはロシア人気質がこれでもかと言うくらいカリカチュアライズされて描かれる。約束は守らない、目的を果たしたとたんに態度を変える。しかし音楽は血であり命であるというプライド。更にはロシアン・マフィアの下品ぶり、ガス油田マネーを笠に着た金満ワガママぶり、ユダヤ系の銭ゲバ、ロマの傍若無人。きっとアジアより欧州の観客の方が抱腹絶倒だったに違いない。フランス語の言い損ないも日本語字幕における苦心のあとは忍ばれるが、きっともっと可笑しいのだろう。
ミヘイレアニュ監督はユダヤ系ルーマニア人で、チャウシェスク政権下の'80にフランスに亡命した経歴を持つ。これだけ人種、宗教、文化の違いを的確かつシニカルに描き分けられるのはその育ち故だ。
ややしつこくそれらのドタバタを描きつつ、旧ソ連政権の国家犯罪を暴き、その悲劇への憤怒を刻みつつラストの演奏会へとなだれ込む。ここでのチャイコフスキー(勿論ロシア生まれの楽聖)のヴァイオリン協奏曲の持つ意味はそれら「ロシアそのもの」をも含んで実に感動的で涙を禁じ得ない。
そして何よりメラニー・ロランの魅力爆発、傑作、お勧め。
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チャイコフスキー: ピアノ協奏曲第1番 ヴァイオリン協奏曲、他
- アーティスト: オムニバス(クラシック),チャイコフスキー,カラヤン(ヘルベルト・フォン),ロストロポーヴィッチ(ムスティスラフ),マゼール(ロリン),リヒテル(スヴャトスラフ),ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団,クレーメル(ギドン),ミネアポリス交響楽団,ウィーン交響楽団,ミネソタ大学ブラス・バンド
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
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