映画和日乗

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「インセプション」監督クリストファー・ノーラン at 梅田ピカデリー

ストーリーについては細部に於いて全く語る自信はない。イメージの洪水であり、キネマ旬報8月上旬号の渡辺謙のインタビューが正確にノーラン監督の映像設計を物語っている。曰く「(ビッグ・バジェットを賭けるのは)とてもリスキーだけれど彼のやりたい世界」「強烈な妄想癖」。つまり全てはノーラン監督の脳内発酵ルックである。他者、つまりこの映画の全関係者も観客も決して解答し得ない世界である。
人間の夢の世界に入り込み、その人物の倫理観・世界観・意識形成を「いじる」ことで現実に起こりうるであろう展開を覆す作業を行うのが主人公コブ(レオナルド・ディカプリオ)。依頼主サイトー(渡辺謙)がスポンサーとなりある企業創業者の御曹司の意識に潜入する。夢の世界はいくつかの断層に別れており、それはエレベーターで行き来できたりする。しかし、実際ここに描かれている全ての世界の中に夢、妄想以外の「現実世界」の存在は感じられない。従って御曹司の「あるべき現実」にも現実感は感じられない。そうなるとサイトーのオファーも「どうでもいいようなこと」である。いや例えば、世界平和の為に金正日の夢の世界を「いじった」ら、もっとサスペンスフルだっただろう。
キーパーソンは名作「ダークナイト」('08)から引き続き同じような佇まいで登場しているマイケル・ケインだ。この人物のみが夢の世界にはいないはずなのだが、コブの行動に全く気にかけている様子もない。ラストに至ってやはり夢側なのかとこちらの意識はこんがらがる。解けない数式に埋没して行く快感はなくもない。
しかしそれとは別に「女王陛下の007」('69)のパロディを盛り込む「稚気」もまたこの監督であり、そこがまた「彼のやりたい世界」たらしめている。




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