映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「戦火の中へ」監督イ・ジェハン at 三宮シネフェニックス

 1950年8月、怒濤の勢いで南進する北朝鮮軍に苦戦する韓国軍。ソウルは既に陥落、韓国軍は韓国南部の洛東江で米軍と共に北朝鮮軍を迎え撃つ為に兵力を温存しなければならなかった。その為途中にある浦項(ホハン)という村の守備を素人同然の学徒兵達に任せる。指揮官のカン・ソクテ(キム・スンウ)は死守を半ば諦めている状況だったが、それでも自分の戦友が戦死した際に傍にいたオ・ジャンボム(チェ・スンヒョン)という16歳の学生を中隊長に任命する。寄せ集めの学生達に突如少年院送りになる筈だった不良グループも編入させられる。彼等の一人ク・ガプチョ(クォン・サンウ)はジャンボムと対立するが、ある時自身の不注意で仲間多数を失うことになり、そのことで彼等は兵士への自覚に目覚める。一方、大軍を率いて浦項攻略を目論む北朝鮮軍指揮官パク・ムラン(チャ・スンウォン)は意外な行動に出る…というお話し。
 映画冒頭に説明される歴史的背景から釜山橋頭堡という言葉を咄嗟に思い出した。この洛東江浦項の戦いは、釜山橋頭堡、つまり韓国軍と連合軍による釜山死守作戦の前哨戦なのだ。この説明の後、いきなり苛烈な戦闘シーンから始まり、「プライベート・ライアン」('98)のヤヌス・カミンスキーばりの手前も奥もびっちりピントの合ったキャメラで観る者を兵士の視線に同化させる。学徒兵ジャンボムは恐怖のあまり声を発することも出来ず、ましてライフルに弾をこめることすらままならず、前線指揮官を目の前で失う。このあたりのリアリティが伏線となり後半生きて来る展開は成功している。一方、ありがちな北朝鮮=極悪という描写に陥らず、司令官パク・ムランを独特の理論家に仕立てている。彼はどこか金日成への忠誠思想に対し斜に構えたスタンス、何故か旧日本軍の正式拳銃を携えていたりしてちょっとカッコ良かったりする。「戦争のはらわた」('77)のシュタイナー伍長ことジェームズ・コバーンからインスパイアされたのではと思うのは私だけか。
 さて、クライマックスの浦項女子中学の攻防戦、「私の頭の中の消しゴム」('04)でこれでもかとしつこく濃く涙腺攻撃を仕掛けて来たジェハン監督のこってり演出がいかんなく発揮され、ド派手な展開となる。いやここまでやったらもう天晴としか言いようがない。日本映画の現場にいる身としては白旗である。
 佳作、お代に損なし。
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