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「ザ・ファイター」監督デイヴィッド・O・ラッセル at 国際松竹

実在のボクサー、ミッキー・ウォードの半生を描く。
1993年、ニューハンプシャーのどこかの町。コカインと売春にまみれた貧しい地域。映画はベータカムのビデオ画像に映るミッキー(マーク・ウォールバーグ)と兄のディッキー(クリスチャン・ベール)のインタビュー風景から始まる。この開巻の数秒、数分でクリスチャン・ベールクリスチャン・ベールとして認識するのに疑いを持つほどの鬼気迫るなり切りぶりだ。元ボクサー、かつてシュガー・レイなるチャンピオンをダウンさせた伝説を持ちながら、パンチドランカーとなって精神が不安定になっているその様は、この映画のリアリズムを決定づける。二人の兄弟の母親、アリス(メリッサ・レオ)も凄まじい。二男七女の子だくさん、しかも七女全てと同居しており、彼女達に職も家庭もあるように見えない。アリスは引っ切りなしに煙草を吸い、夫をなじり、兄弟を溺愛し全てに干渉する。勿論ボクサーとしてのミッキーのマネジメントも行う。この、自己顕示と支配欲と意地汚さを全て体現するメリッサ・レオクリスチャン・ベールと共にオスカー助演賞受賞もむべなるかな。いやこの二人に限らず役者は全て素晴らしい。徹底してリアリズムなのだ。
この家族に対して、ミッキーは恋人シャーリーン(エイミー・アダムス、素晴らしい)と出会う事で自らのボクサー人生を託せないと見切りをつける。兄ディッキーは刑務所入り、ようやくミッキーは勝ち進み、ステップを駆け上がりつつあったが…兄の出所と共にまた引きずり戻される。いや、戻されそうになる。この家族の「血は水よりも濃し」、母親の磁力に逆らえない男の子という性。繰り返すが役者の巧さのアンサンブルに唸る。
エンドロール、度肝を抜くのは本物のディッキーとミッキーのインタビュー画像(恐らく現在の姿)、クリスチャン・ベールの入魂、命懸けの演技であったことが判るほどの相似ぶりだ。
佳作、お勧め。

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