映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「家族X」監督・吉田光希 at ユーロスペース

東京郊外の住宅街、一見瀟洒なようで画一的且つ全てがモデルルームのような家々、そのうちの一軒である橋本家が舞台。
夫(田口トモロヲ)と妻(南果歩)とひとり息子(郭智博)が写る家族写真がオープニング。劇映画に於いて、部屋に飾られた家族写真ほど撮りにくいものはない。俳優が演じている事で血縁的な体温がどうしても出ない。どう撮っても先だって撮った劇中用写真、でしかない。しかし吉田監督はこの家族写真を手持ちのようなゆらゆら、いやカタカタと震えるような不安定なフレームで、しかもやや長めに捉えることで凡庸な既視感からすり抜ける。
不安神経症と強迫観念に苛まれている妻を主に後頭部から捉え続けるキャメラ。ベルギーのダルデンヌ兄弟をすぐに想起する。案の定、このダルデンヌ調で全編覆い尽くされているが、あの寒々としたベルギーの風景のもたらす荒涼感とは別の意味で、没個性な家々に出入りする生気のない家族達と景観意識のカケラもない林立する電柱という日本の風景はチープで寂しく、この社会の病理を裏打ちするショットとなっている。
イカの塩辛の広告が掲げられている会社に勤める夫はパソコンが苦手で自己主張が全くない。帰路は呑みに行くでなく喫茶店で煙草を吸ってパソコンの教則本をめくる。同じようなタイプの同僚はカプセルホテルに住み、土日だけ家に帰るという。そして肉体労働の現場を転々とする息子。やがて妻の症状は進行し、遂には失踪する。さて「家族」はその時どうするか。暗示めいてはいるがはっきりとは提示されないその結論。易い希望には流されない、カタルシスはないのだ、という意志は感じられるものの冒頭の家族写真に立ち返る何かが欲しいと思った。
私の「能登の花ヨメ」の助監督だった吉田光希君の劇場用映画監督デビュー作。
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