映画和日乗

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「恋の罪」監督・園子温 at シネリーブル神戸

よもや1年に2本も園子温監督の新作を見る事になるとは思いもよらなかったが、それほどまでに疾走するクリエイターと、作品に惹き付けられる我々がいて、時代との並走感は他を圧倒している。
が、だ。夫の親友と不倫している刑事(水野美紀)、強迫観念気味の作家(津田寛治)に仕える妻いずみ(神楽坂恵)、いずみを売春婦としてリクルーティングする大学助教授の美津子(富樫真)という三人の女がバラバラ遺体殺人事件を契機に絡み合って行くストーリーの中で、しばしば美津子が絶叫し、いずみを洗脳していく言葉の観念先行に乗れなかった。前作「冷たい熱帯魚」ででんでんがまき散らす、可笑しいくらいの暴論によって否応なく犯罪に巻き込まれて行く吹越満にはそうならざるを得ない説得力があった。理屈がぶつ切りにされ意味不明となった言葉が機関銃の弾のように突き刺さって来る恐さが素晴らしかったのだ。その「熱帯魚」の男対男に比べると今作の女対女のリクツっぽさは、洗脳されて行くいずみがどんなに美津子に「私のところまで堕ちて来い!」と言われて「堕ちて行って」もただの言いなりのオツムの悪い女としか受け取れなかった。結局何もしない刑事も、だ。
そこにリビドーの覚醒があったとしても(どんなに激しいセックスシーンがあっても)描写としてはどこか古めかしさを感じてしまう。嘗て今村昌平が描いた「堕ちた」女性達はもっとあっけらかんだった、そして心身共に逞しかった。後半、やっと事件の中核に現れる美津子の母(大方斐紗子)が、その分り易い理屈の刃を振りかざして先行世代のパワーを爆発させるところがこの映画の白眉。それは彼女達が都会(それもたかだか渋谷円山町)で迷えるか弱き現代の乙女達に見えてしまう瞬間だった。
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