同名小説の映画化。原作は未読。イマドキの殺伐とした高校生の話しかと勝手に想像していたが、全く違っていた。携帯もスマホもある世界だが時代感覚は'80年代である。部活動がその主な舞台なだけに放課後の学校風景がほとんどなのだが、この午後4時前後の、晩秋の陽光の加減が素晴らしい(撮影:近藤龍人、照明:藤井勇)。高知県で撮影されたらしいが屋上はもとより校舎、渡り廊下などあらゆる所に夕方の陽光が差し、色づいた木々の葉が煌めく。
ある「金曜日」が各部活動(男子バレー部、吹奏楽部、バトミントン部、映画部、そして帰宅部)ごとに繰り返し描かれ、行方不明となったバレー部桐島君を巡るエピソードを多面的にあぶり出す。どこかで見た事のある脚本構成だと見ている間中気になって仕方がなかったが、キネマ旬報8月下旬号を読んで答えが見つかった。ガス・ヴァン・サントの「エレファント」('03)だった。そうだそうだあれだ。
男前の帰宅部達、彼等に絡む美少女達、そしてその埒外の映画部。「スーパー8」('11)を否が応でも想起する(ロメロを信奉してゾンビ映画をつくるところまで同じじゃないか!)、この映画部の奮闘ぶりが経験者としては可笑しいやら身につまされるやら。
「ドラフトが終わるまでは」野球をやめないキャプテン、「映画監督にはなれないけれど、僕達の映画はあの映画とどこかで繋がっている」と8ミリキャメラを掲げる前田(神木隆之介)、この二人の言葉を受け止めて涙する菊池(東出昌大)。勝ち越せない人生を生き抜く諦観とタフネスを彼が知ったこの瞬間が最も感動的だった。暮れなずむ夕景は当然狙いなのであろう、映画の神が味方したドンピシャぶりだ。美しい。
いちいちここには挙げないが女子達の残酷なまでの同性間保身と異性を巡る競争のディテールが実に繊細に描かれていて秀逸。
いや確かにそれがどうした、社会も国家もここには描かれていない、あまりにドメスティックだと言われればそうかも知れない、しかしかつて学校の屋上には恋も創造も闘争もあったのだ。懐かしくて仕方がなくなる映画なんてそうない。吉田大八監督、同学年。
佳作、お勧め。