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「終の信託」監督・周防正行 at 東宝関西支社試写室

朔立木の同名小説の映画化。原作は未読。
周防監督の近作「それでもボクはやっていない」('07)「ダンシング・チャップリン」('11)と、共に映画的文法から外れた試みが続いたあとの最新作。
見ている間中、山田太一脚本のドラマが重なって見えた。
戦争と戦後と高度経済成長と家族。かつては「見なければ」と意識した山田太一ドラマがテレビの世界から締め出されてしまった今、膨大な台詞を丁寧に焼き付けて行くようなこの「終の信託」に、「山田太一的な何か」の新しい住処としての映画だと勝手ながら思った。あくまで私の勝手ながら。と、見終わってから開いたプレスシートに山田太一氏が絶賛の推薦文を寄せていた。
しかし事実、ここには戦争と戦後と高度経済成長と家族、そしてそれに関わるひとりの女性の孤独とひとりの男の死が描かれている。きっちりと、丁寧に、真っ当に。
「映画は人間を描く」と戦後日本映画の一潮流としてあったヒューマニズムとリアリズムはしばしば観念過剰に陥ったものだが、周防監督はここでは「人間らしさ」を描いて見せてくれる。感情に流されがちなひとりの女性医師(草刈民代)の弱さ、そして感情を失ってしまったかのような患者の妻(中村久美)の諦観との対比。そして唯一の「非人間的」な検事(大沢たかお)のこれまた「らしさ」。
終末医療尊厳死を巡る裁判ものと思うなかれ、これは「人間らしさ」についての答えのない問いかけの映画である。
脱ぐの脱がないのと本末転倒なことで作品を潰す「事務所主導」の業界で、立派な妻との恊働作業をなし得た周防監督、日本一。
どうでもいい映画が過半数の今、必要な映画。お勧め。
10月27日公開。


敗者たちの想像力――脚本家 山田太一

敗者たちの想像力――脚本家 山田太一


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