映画和日乗

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「アルバート氏の人生」監督ロドリゴ・ガルシア at 元町映画館

グレン・グロース主演、製作と脚本にもその名前がクレジットされており彼女の並々ならぬ意気込みでつくられたことは想像に難くない。
19世紀のアイルランド。とあるホテル(日本風に言うと老舗の料理旅館)に給仕として勤めるアルバート(グレン・グロース)は男として雇われ、周囲もまた彼女が男であることを疑ってはいない。しかしある時ペンキ職人(ジャネット・マクティア)が雇われ、アルバートとひと晩だけ相部屋となる。ペンキ職人はこの夜、アルバートが女である事を知る。アルバートは貰ったチップをコツコツと床下に貯めている孤独な女だったが、ペンキ職人もまた実は男ではなく女であり、同性と結婚までしていることが分り、アルバートの心境に変化がおとずれる…というお話し。
女が男と偽って生きて行くのは心の傷の為だったり職を得て生きて行く為、とこの映画の登場人物達は語るが果たしてそれだけではないだろう。あるいは本心は語れないのかも知れない。カソリック絶対支配下のアイルランド、性の違和感からの解放を説くのは御法度だったに違いない。
彼等が「女装」して海岸を歩くシーンがあるが、男を演じている女が女に戻った時の戸惑いという、演技者には究極のメソッドは出色。サイドストーリーとして若い給仕の女(ミア・ワシコウスカ)とボイラー技士(アーロン・ジョンソン)の恋と破局があり、ここでも女性への暴力的抑圧が描かれるが図式的に見えなくもない。登場する男性が優しさのカケラも無く誰ひとり魅力的に描かれないのだ。ロドリゴ・ガルシアという監督、これまでもかなり繊細な描写の作品が多いが感覚的に女性なのかも。
さて、嬉しかったのは「ザ・コミットメンツ」('91)のコーラス女性3人組が全員出て来たこと。あれもアイルランドが舞台だったが、生粋のアイルランド人をキャスティングしたらこうなったのか、それともプロデューサーか監督があの映画のファンだったのかは分らないが、皆さんお元気で頑張ってて何より。



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