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「ゼロ・ダーク・サーティ」監督キャスリン・ビグロー at TOHOシネマズ西宮OS

ハート・ロッカー」('08)でオスカー監督賞を獲得したキャスリン・ビグロー、自らに更に高いハードルを課すかの如く再び砂漠の戦争を舞台に選び、2010年の出来事というついこの間の事実を描くという、ヘタをするとただのニセドキュメンタリーになってしまうリスクをも背負い込み挑んだ野心作。
前作では16ミリの荒れたルックで「映画的戦場」を表現していたが今回はフルデジタル、クリア過ぎる映像によって映画的な密度よりもその場所の臨場感が優位に立つ。時折挟まれるテロップも素っ気ないデザイン、テレビの様だが勿論確信犯だろう。前作と同じジャーナリスト出身のマーク・ボールの脚本は時系列をいじらない、伏線も張らない、徹底して「流れ」のみで押す。このニセドキュメンタリー的ベースにどう映画を構築して行くか。それは高卒のCIA局員マヤ(ジェシカ・チャスティン)のキャラクターを描き込むことで際立たせる。マヤの標的はテロリストでありその導師であるビンラディンなのだが彼女の背後と頭上には官僚主義の石頭や鈍感頭という敵も控えている。女性監督ビグローがこのキャラクターに入れ込むのは自然の理、そしてそれは成功している。表層的には対テロリズムだが透けて見えるのはキリスト教イスラム教に絶対に負ける訳には行かないということ。この映画の内外で拷問の是非が論議されているが、建前はそうでも彼等の本音は異教徒は殲滅して良いという聖書の教えが抜き差し難くあり、それは継承されているのだ。その論理に東洋の島国のマシュマロ平和主義など歯が立つ筈がない、ということが良く解る。
タフネス、キャスリン・ビグロー
今年3ヶ月目でようやく歯ごたえのある佳作に出会う。お勧め。


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