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「リンカーン」監督スティーヴン・スピルバーグ at TOHOシネマズ渋谷

冒頭、日本の観客向けにスピルバーグ自身が南北戦争の時代について解説する映像が流れる。いつの日か太平洋戦争や第二次世界大戦のこともこうして解説される日が来るのかも知れない。えらい時代になったものだ。
さて本編、南北戦争の白兵戦がオープニング、例に依って壮絶な戦争を描くのかと思いきや、スピルバーグはその手を封印し、徹底してリンカーンの吐く言葉と議会での応酬を描く。前作「戦火の馬」('11)でクラシック回帰へ傾いた彼はここでもそれを継続している。即座に思い出したのは「アラバマ物語」('62)と「12人の怒れる男」('57)。いずれも法廷劇、室内劇。「アラバマ物語」は黒人を弁護する弁護士の話しだった。
奴隷解放の法案を巡る多数派工作がドラマの中心なのだが、スリリングとは言い難く、歴史的事実として結末が分っているだけに、プロセスを延々と展開されてもそこには意外性はない。へぇ、そうでしたか、という感じ。
スピルバーグは自らの得手を禁欲的なまでに封印し、昔々の良心的なハリウッドに倣った正義の物語に拘る。法案を通したリンカーンが妻に「エルサレムに旅行したい」と言わせる辺り、微かにスピルバーグ印を残したか。
アメリカ合衆国建国の理念を思い出そう、という実に生真面目な映画であり、それを今問わなければというスピルバーグの危機感は伝わる。ご立派です。


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