冒頭とラストで重要な役割を結果的に果たしている一曲の歌、聴き覚えがありながら何の曲だったかモヤモヤしたまま、エンドロールで思い出す。ペットショップボーイズの「Go West」。このタイトルで本作の骨格たる図式が浮かび上がった。
1999年から始まる物語。二人の男性から言い寄られている濤(趙濤)、選んだのは金持ちの方、選ばれなかった男は15年後の2014年、炭鉱で働き、肺病を患う。金持ちの男と別れてガソリンスタンドを営んでいる濤。経営は順調だが一人息子は別れた夫の方と暮らす。肺病を患った男の妻が治療費の金策で濤を訪ねてくる。快く金を貸す濤。2025年のオーストラリア。町には中国人が溢れ、することがなく、銃器コレクションが趣味となった濤の元夫。濤との間に出来た男の子、ダラー(懂子健)は大学生となり中国語を忘れて英語しか話せない。ダラーはしたいことが見つからないから大学を辞めて家を出たい、と父に告げるため年上の中国人女性恋人に通訳を頼む‥。
Go West、欧米型自由経済主義を目指した中国は貧富の差が拡大し、一方は金持ちとなってオーストラリアに移住、一方は肺病で治療費もままならない。そして未来、解体された家族はそれぞれ一人で暮らし、若者は中国語を忘れ、したいことが見つからず、大人たちはどうでも良い浪費で孤独を癒す。これは2025年の中国の「予言」でありつつ現代日本の姿と重なる。貧しい日本映画界はオーストラリアロケなど決して出来ず「肺病の男」の方しか描けないが。